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鍛冶ドワーフの朝は早い。異世界で転生チートが考える魔法銃は本当につくれるか?

作者: もろこし
掲載日:2026/04/03

 鍛冶ドワーフの朝は早い。


「まぁ好きではじめた仕事だからな」


 まだ夜も明けやらぬ早朝、冷たい水で顔を洗って気を引き締める。


 一日の始まりは、素材の入念なチェックから始まる。


「最近は良い鉱石が入らんな……」


 そんな愚痴が口からこぼれる。


 そして炉に火を入れる。毎日毎日温度と湿度が違う。こればかりは魔法まかせには出来ない。


 炉の温度が上がるのを待つ間に店を開ける。


 需要や嗜好に合わせて、多種多様なものを作らなければいけないのが村鍛冶の辛いところだ……


「あっ、あの……」


 看板を出して店内に戻ろうとした所で後ろから声を掛けられた。なんだよ、コピペのモノローグを脳内で楽しんでたのに邪魔しやがって。


「あん?朝っぱらからなんの用だ?」


 振り返ると3人の少年少女がいた。声をかけてきたのは真ん中の少年だった。


 3人とも年は15歳くらいか。見た所、少年は剣士、二人の少女はそれぞれ僧侶に魔法使いって感じか。首からぶら下げてるのは鉄札、つまり駆け出しの冒険者パーティってことだな。初心者のくせにもうハーレムかよ。爆発しろ。


「こ、ここなら何でも作ってくれると聞いて来たんですが……」


 どうした少年、なんでそんなにビビってるんだ。おいおい少女二人は少年の後ろに隠れちまってる。そんなに俺が怖いのかよ。まったく客なら最初にそう言えってんだよ。まあ齢200歳越えのドワーフは確かに見た目が怖いわな。


「何でもという訳じゃねえが、まあ鉄で作るもんなら大体つくれるぞ」


 仕方ねえなあ、接客モードに切り替えてやるか。少しだけ声を和らげて答えてやると少年はあからさまにホッとしやがった。


「よ、良かった。実は、こんなものを作って欲しくて……」


 少年はくしゃくしゃの紙を渡してきた。なんだよ汚ねえなあ。しかも絵がめちゃめちゃ下手くそじゃん。もうちょっと絵の練習をした方がいいぞ。


「これはなんだ?」


「あっ、あの、これは僕の考えた新しい武器です!」


「……ほう」


「えっと、この部分は鉄の筒になってて、それを木製の台座に載せて、筒の後ろの取っ手を引くと穴があいて、そこに弾丸と魔石を入れる様に……」


 なんだこいつ突然早口で喋り始めたぞ。オタクか?オタクだな。


「なるほど……ここの所は弩みたいな仕掛けか?」


「はい!それは引き金、こっちは撃鉄って言います。撃鉄を起こして起動用の魔石をセットして、引き金を引くと起動用の魔石が装薬用の魔石に当たって火魔法が発動するんです。それで前の弾丸を筒から打ち出す仕組みです!」


 あーつまりこれは小銃やね。ボルトアクション式の。単発で弾倉もないのは試作だからか、それともこいつが構造を知らないだけか。多分この様子だと知らない方に1万ペリカ賭けてもいいな。


 転生者があやふやな知識でチートムーブしようとしてるのが笑えるわ。


「ふん。つまりこれの他に魔石と弾丸?ってのが要るんだろ?そっちはどうするんだ?」


「あっ、弾丸と魔石は僕が用意しますから大丈夫です」


 へーそうなの。弾丸はどうせ土魔法で作るんだろうけど、魔石はどうすんだ?薬室に収まるように小さく加工して、それに起動と魔法の刻印するのって大変だぞ。それに発射した後のイジェクトとか何も考えてねーんだろうな。


「ほーん、しかし、なかなか変わった仕組みだな。これ、お前が一人で考えたのか?」


「はい、僕が考えました!」


「そりゃ凄えな」


 こいつ今、自分で考えたって言いやがった。お嬢さんたち、隣で目をキラキラさせて少年を見てるけど、そいつ、ただカンニング野郎だぞ。


「あの……作れそうですか?」


 ドワーフを舐めんじゃねえ。言われた通りに作るだけなら、たいして難しい仕事じゃねえよ。


「いや、問題ない。100ゴールドだな。前金で50ゴールド、納品時に50ゴールドもらうが、良いか?」


「そ、そんなにかかるの!?」


「嫌なら他を当たってもらって構わんぞ」


 3人はヒソヒソと相談しはじめた。出来れば諦めてくれねーかな。


「ど、どうしよう?」


「でもトウヤ、こんなの作ってくれる変な鍛冶屋ってここしか無いって話よ」


 おい聞こえてるぞ。変な鍛冶屋で悪かったな変で。


「ナタリー、ここはお願いしてもいいかな?ごめん!」


「もー、しかたないなー。トウヤ、あとで絶対に埋め合わせしてもらうからね!」


「あ、それなら後の支払いは私にまかせて」


「ソフィアもありがとな。もしこの銃が成功すれば、もっと稼げるから。そしてランクアップして、どんどん稼ぐから。それまで貸しにして」


 おいおいマジか、こいつ女に払わせやがったよ。しかしポンと50ゴールドを出すなんて、きっとどこかのお貴族様なんだろうな。お巡りさん、酷い詐欺師の転生者が女の子を騙してますよ。


「確かに前金は受け取った。一週間後にとりにこい」


 まあこっちは金さえもらえば問題ねえ。どうせ元手は掛からんし、後金を取りっぱぐれても儲けは十分だ。


「さーて、確かどっかにあったな~」


 イチャイチャしながら去っていく3人を見送ると、俺は店を閉めて奥の倉庫に向かった。


 倉庫の棚には依頼は受けたけど結局納品できなかったものとか、俺の個人的趣味で作ったものとか色々と保管してある。


 俺の個人的趣味ってのは主に日本刀もどきだが、まああれだ、黒歴史というやつだ。この世界にまだ慣れていなかった100年も前の事だし大目に見て欲しい。俺も昔は若かったんだよ!


「たしか10年ほど前に同じ様なやつを作った記憶が……おーあったあった」


 棚の奥から細長い包みを取り出す。積もりまくった埃を払うとむせた。くそ。やっぱり一度大掃除をすべきだよなー。そう思っていつも忘れちゃうけど。


 包みを開けると細長い物体が出てきた。というか完全に見た目はボルトアクション式の小銃だ。トウヤの依頼どおり、と言うかあの落書きより数段上等な奴だけどな。


 銃身を覗いたりスライドや引き金を引いて動作をチェックする。保護魔法もかけといたから大丈夫そうだ。念のため後で油をさしとこう。


「……そういや、こいつの代金はもらってないんだよなあ」


 10年前、あん時も頼まれて作ったんだった。もう名前は忘れちまったが、アイツはトウヤと同じくらいの少年なのに、トウヤより余程しっかりした奴だったな。


「悪い奴じゃなかったが……どっかでおっ死んじまったんだろうな」


 せっかく作ってやったのに、結局あいつは取りに来なかった。あれ以来、俺は必ず前金をとるようにしている。こっちも生活があるからな。


 ■□■□


 そして一週間後、トウヤ達が受け取りにやってきた。


 「ほら、これが頼まれたやつだ。寸法が入ってなかったから筒の穴の直径は勝手に12ミールにさせてもらったぞ」


 トウヤに銃を手渡す。


「スゲー!カッケー!俺ってやっぱり天才じゃね?」


「トウヤ、これが銃というものなのですね!素晴らしいです」


「やっぱりトウヤは天才だね!」


 受け取ったトウヤはガチャガチャとスライドを引いたり引き金を引いたりして子供の様にはしゃいでいる。それを女の子二人がうっとりと見つめている。こいつら俺の話を聞いてねえ。


 おいおい、天才なのは10年前に注文した少年と作った俺様だ。その銃にお前のラクガキ知識なんて1ミールも入ってねえよ。それにお嬢さんたち、あんたらに男を見る目がないのはよく分かったよ。


「ちょっと貸せ」


「あっ……」


 いつまでもはしゃいでるから話が進まん。俺はトウヤから銃を奪い取った。


「お前から特に指示はなかったが、たしか魔石は使い捨てだったな。だから取っ手を引くと中に入れた魔石が飛び出る細工を付けてやった」


 ダミーの魔石を入れてスライドを閉じ、もう一度引くと魔石が飛び出る様子を見せてやる。


「おおー」


 要は本物の小銃の排莢動作ってやつだ。トウヤがアホ面を晒してその動きを見ている。こいつ、やっぱり何も考えてなかったな。


 そしてトウヤに一枚の紙と一緒に小銃を返す。


「ほれ、これが魔石と弾丸の寸法だ。これと同じ大きさと形に加工すればいい」


「あっ、ありがとうございます……それで、その……追加の料金は……」


 トウヤが急に大人しくなった。そして左右の女の子を恐る恐る見る。一応は彼女に金を出してもらってるって自覚はあるんだな。


「いらんよ。残りの50ゴールドを払ってもらえれば十分だ。追加の細工と図面はサービスしといてやる。だがもし魔石や弾丸の寸法を変えたいってなら別に金をもらうぞ」


「やったー!ありがとうございます!ソフィア、残りの50ゴールドを払ってもらっていい?後で絶対に返すから!」


 そして残金を支払い銃を受け取った3人は、はしゃぎながら帰っていった。


「まー頑張りな」


 上手くいかないだろうけどな。ま、金は貰ったし俺には関係ねーや。さて仕事に戻りますか。


 ■□■□


 三日後、トウヤと一緒にいた女の子二人が怒鳴り込んできた。トウヤの姿は見えない。代わりにそれぞれの家の者らを数名連れている。おいおい兵士もいるぞ、物騒だな。


「ちょっとあなた!なんてものをトウヤに渡したの!」


「トウヤは……トウヤは……あんたの不良品で大怪我をしたのよ!」


 ナタリーとかいう女の子の方が俺に壊れた銃を突き出した。知らんがな。良く見たら女の子二人も包帯巻いてるな。


 つうか、こいつら興奮しすぎてて話にならんな。そう思ったらソフィアの家の偉そうな男が進み出てきた。こいつも同じように怒ってるみたいだけど、こっちはまだ話ができそうだな。


「お前の作った武器で伯爵家と子爵家のお嬢様方が負傷した。お付き合いのあった男爵家の三男は重症だ。貴族を傷つけた罪は重罪だと知っていよう。とりあえず一緒にきてもらおうか」


 マジか、まさかあのバカ、試射を皆の前で直接やったのか?まー試射のやり方なんか知らなそうだったしな。


「俺は言われた通りの品を作っただけだ。俺は仕事に自信はある。不良品を渡した覚えはねえぞ」


「だって、あなたの作った銃が爆発したのよ!」


「そのせいでトウヤの目と指が……」


 だから知らんがな。まーこの世界に部位復元の魔法はねーからトウヤの目と指は永遠に戻らないし、あんたらの大やけどの跡も一生残るだろう。誰かを恨みたい気持ちも分かるが俺に当たるのはお門違いだって。


 突き返された銃を検分すると薬室から銃身の半ばまでが溶解して吹き飛んでた。想像どおりのやらかしだな。逆にスライドとか俺が追加したイジェクター部分には何の異常もない。


「いいか、俺は注文どおり作っただけだ。俺がサービスで追加したカラクリ部分は何の異常もねえ」


「だから何なのよ!」


「ほれ、明らかに魔法が発動した所が溶けて飛び散ってる。魔石と魔法を用意するのはそっちという話だった。どんな魔法をどんな強さで発動させるか俺は聞いとらん」


 受け取った銃をナタリーに突き返す。うちは使用済みの返品は受け付けておりませーん。あしからず。


「とにかく一緒に来てもらおうか。申し開きは向こうで聞いてやろう」


 左右から囲む様に兵士らが進み出てくる。お?やるの?やるっての?


「こっちは毛ほども悪くねーんだ。ほいほいとついて行く訳ねーだろ」


 腰の大型ハンマー(商売道具)に手を伸ばす。ついでに威圧スキルを全開でぶちかましてやった。


「ひっ!」


 兵士らは目に見えて狼狽して後ずさった。こちとら昔は銀札の冒険者もやってたからな。今でもお前らみたいなヒョロヒョロの人族くらい秒でノシてやんよ。あ、やべ。女の子らは気を失ってるわ。ちょっとやり過ぎたか?


「どうしてもと言うなら神殿の裁定官殿に委ねても構わんぞ。裁定で負ければ家名に永遠に傷がつくだろうがな。あーそれとも手っ取り早くここで直接相手してやろうか?」


「くっ……こ、このっ……平民風情が!」


 男らは気を失った女の子らを抱えると、捨て台詞を吐いて帰っていった。


 また、めんどくさい事になりそうだなあ。あいつら貴族だし。しゃーない、気がすすまねーけどアイツに相談するか。土産もってきゃ話きいてくれるだろ。


 ■□■□


「いらっしゃい。元気そうでなによりだわ」


「侯爵様もご健勝そうでなによりで」


「あら、そんな他人行儀な。久しぶりね。1年ぶりかしら?」


「10年ぶりだよ!エルフはどういう時間感覚してんだよ!」


 貴族には貴族であたるのは正解なんだけどなあ。もう100年単位で腐れ縁なんだよな、こいつと。


 まだ俺も若い頃、冒険者やってた時にパーティにいたガサツなエルフ女が実はお貴族様だったなんて知らなかったよ。だいたいなんでエルフが前衛で大剣を振り回すんだよ。エルフって森の民でヒョロっとしてて魔法使うのがデフォじゃないんか。


「どうして訪ねてきたか、だいたい想像つくけど。またあなた楽しそうなことになってるわね」


「楽しかねーよ。客が貴族様だって分かってたがよ、こっちも仕事だからな。まあ知ってるなら話が早いや。レティシアの方で黙らせられるか?」


「もう!昔みたいにレティって呼んでよ」


「……頼むよ、レティ」


 まったく変わんねえな、こいつは。自分の齢を考えろよ。


「んーどうしようかなー」


 こらこら、獲物を見つけたネコみたいな笑顔はやめてくれ。ちゃんと報酬は用意してきたって。


「さっき預けた大剣があるだろ。今回はそれで手を打ってくれないか」


 レティシアの背後に控えていた執事が布に包まれた剣をスッとテーブルに置く。布を取ると無骨な大剣が姿を現した。レティシアの目の色が変わった。うん、いけるな。


「地味だが、作りそのものは自信がある。飾りはつけてねえから拵えはそっちで好きにやってくれ」


 ごくりとレティシアの喉が鳴った。


「て……手に取ってもよい?」


「もちろんだ。俺があんた用に打った大剣だからな」


 待ちかねたようにレティシアが大剣を手に取った。おいおい楽しそうだな。目がキラキラしてるぞ。


「よし、ちょっと外に出て試してくるわ」


「こ、侯爵様!お願いですから今はご自重を……」


「むう……」


 さっそくスカートの裾をたくし上げて部屋を飛び出ようとするレティシアを家令が慌てて止める。おっさんも苦労人だな。


 まあ、こいつはただの太刀じゃない。見てくれはグレートソードだが鋳物じゃなくて打ちものだ。しかも黒歴史時代に打ちまくった日本刀のように合わせで作ってあるから、強度と切れ味を両立させてる。


 さっき見た目は地味と言ったがそれは柄だけの話。刀身そのものは実は派手派手だ。


 刃の部分には互の目(ぐのめ)の刃紋がくっきり出てるし、皮金の部分はダマスカス風に禍々しい縞模様を浮き出させてる。もう中二病全開って感じだ。魔法鍛冶ってやっぱり楽しいわ。


「知っての通り俺様にしかできない製法で打ってある。折れにくいし切れ味も保証する。スロットも二つあるはずだから、そっちで好きな魔法をセットしてくれ」


「し、仕方ないわね……今度私と一緒に森に行ってくれるなら……」


 えーやだよ。俺もう現役じゃねーし。ドワーフも寿命長いけどエルフほど長命じゃねえんだよ。それにお前、戦闘になるとバーサーカーで言うこと聞かないじゃんか。そもそも侯爵家の当主に遊びで狩りにいく暇なんかねーだろ。


 それと人と話す時くらい太刀から目を離せよ。せっかく美人なのにちょっとヤバい奴に見えるぞ。


「おいおい、売れば一万ゴールドはくだらん品だぞ」


「むう……わかったわ。今回はこれで手を打ってあげる」


 レティシアががっくりと肩を落とす。そして名残り惜しそうに太刀をテーブルに置くとようやく俺に向き直った。


「女の方は伯爵家と子爵家でうちの寄り子よ。どっちも婚約者のある身で他の男に現を抜かしたり、家の金に手を付けたり、両家でも問題になってたみたい」


 お、先に動いててくれてたのか。レティシアやるじゃん。


「これを機に教育しなおすか家督継承順位を見直すらしいわ。もう傷物だし貰い手もないから修道院行きかもしれないわね。どっちにしろあなたの所に来ることは二度と無いでしょうね」


「ほーん。それで男の方は?」


「彼は男爵家の三男よ」


「……俺はアイツは『無害』だと思うが?」


 笑顔を消して慎重に言葉を選ぶ。もう10年前の繰り返しは見たくない。レティシアは笑顔のまま、ほんの少しだけ目を細める。


「彼も色々と男爵領内で騒動を起こしてたみたいよ。昔のあなたみたいに」


 レティシアは何事もなかったように口をひらいた。


「茶化すなよ。それに俺と一緒にしないでくれ」


 やっぱりトウヤは知識チートしようとして無茶苦茶やってたんだな。俺は5歳の頃にはもう自重してたぞ。


「問題は彼が不思議と周囲の女性を惹きつけることね。あなたみたいにね」


「だからいちいち俺を引き合いに出すなっての。俺はそんなにもてなかっただろ。それで男の方はどうなるんだ?」


「伯爵家と子爵家の子を傷物にしたのよ。男爵家の方は借金して賠償金を支払ったそうよ。彼は家から放り出されたわ。貴族籍も抜かれたから、もう平民ね。あなたと同じ」


「なんだよ、もう全部終わってるじゃねーか。それならこの太刀は要らねーな」


 俺がテーブルの太刀に手を伸ばすと、触れる前にレティシアにひったくられた。


「駄目!これはもう私がもらったんだもん!」


 300歳を越えてる女が「だもん」ってなんだよ「だもん」って。まあこいつには恩もあることだし仕方ねーか。


 ■□■□


 その後、レティシアの言う通り女の子らとその実家が何か言ってくることは二度となかった。風の噂では二人とも修道院に入れられたらしい。


 かわりにトウヤが一人でやってきた。


「おいっ!」


「あん?なんだお前か。なんか大変だったらしいが返品返金は受け付けんぞ」


 頭と右手に巻いた包帯が痛々しいな。おーおー残った右目が怒りで燃えてるわ。だから俺は悪くないってば。


「なんだこれは!」


 知らんがな。だから銃を投げつけんなよ。返品は受け付けないって言ったろ。使い方も間違ってるぞ。銃は投げて使うもんじゃねえ。


「俺は注文どおりの品を作っただけだ」


「これのせいで!これのせいで僕は……!」


 めんどくせーな。また説明しなきゃならんのか。


「ほれ、ここを見て見ろ。ソフィアとナタリーにも言ったが、ここは割れちゃいねえ。溶けてるだけだ。つまり元の強度に問題は無かったってことだ。原因はお前らが込めた魔法だ」


「その溶けた鉄で僕は目と指をやられたんだ!男爵家は追い出されるし!ソフィアとナタリーも会ってくれないし!全部お前のせいだっ!」


 知らんがな。


「だから溶けたのは魔法のせいだって。どんな魔法を使うかお前は俺に言わなかったろ」


「そ、そんな言い訳を……」


 お前はもう平民なんだよ。もう誰も助けちゃくれねえんだよ。


「いいか、自分の行動に責任を持て。全部お前が生半可な知識で行動した結果だ。人のせいにするんじゃねえよ。そんなことより、今日からどうやって生きてくか真剣に考えた方がいいぞ」


 腰のハンマーに手を掛けてちょっと脅してやると、トウヤはうずくまって泣き始めた。メンタルよえーな。


「こんなの間違ってる……僕は主人公のはずなのに……いきなりハードモードなんて酷いよ……」


 なんかブツブツ言ってるけど、その認識をまず変えた方がいいぞ。ここはゲームじゃなくて現実世界だからな。俺でも5歳の頃には分かってたぞ。


 もういいや。放っておくか。


 トウヤを残して店に戻って、しばらくして見てみたら姿が消えてた。ついでに壊れた銃もなかった。鉄だし売れば多少の金にはなるからな。


 生きてさえいれば、きっと良い事もあるさ。生きてさえいれば。まあこれから頑張れ。


 ■□■□


 剣と魔法の世界に転生したヤツが「よし銃を作ろうぜ!」って考えるのは、よくある話だよな。


 そこで普通はトウヤみたいに火魔法を使おうと考える。それが間違いの元だ。


 現実の銃ってのは、装薬の燃焼で発生したガスが膨張して、その圧力で弾丸を押し出す仕組みだ。つまり重要なのは「ガスの発生と圧力」だ。熱じゃねーんだよな。


 火魔法ってのは基本的に熱を発生するだけ。だから弾丸を飛ばすのにクソの役にも立たない。


 もし密閉された薬室内で火の魔法を発生させたらどうなるか。熱の逃げ場がないから薬室が溶けるだけだ。そもそも俺が仕事で使ってる魔法炉がその原理なんだから間違いない。


 きっとトウヤは弾丸が飛ばないから、どんどん火魔法の強度を上げたんだろう。そして事故に繋がったってわけだ。


 じゃあ仮に薬室を熱対策をして空間を設けて、熱でそこの空気を膨張させたらどうか。良さそうな案だがこれも駄目だ。熱膨張の体積増加なんてたかが知れてる。


 空気の熱膨張は、たしかシャルなんとかさんの法則だっけ?圧力が変わらないなら温度が1度上昇するごとに体積の273分の1ずつしか膨張しない。物理法則はこの世界も地球と似通ってるから、その傾向は変わらない。


 仮に火魔法の熱だけで100倍の体積膨張をさせるなら2万7千度の温度が必要になる。ちなみに空気は大気圧では5千度くらいでプラズマ化してしまう。どこの宇宙怪獣だよ。


 ちなみに鉄は1538度で溶ける。そして2880度で蒸発する。つまり鉄じゃ無理って話だ。仮にミスリルとかオリハルコンとかのファンタジー素材でも融点は鉄よりマシなレベル。結果は変わらん。


 じゃあ火魔法で駄目なら、爆発魔法なら良いだろうって考えるよな。


 あの魔法は何もない所に爆風を生みだす。つまり燃焼ガスに相当する「謎物質」を生み出して、それが急激に膨張しているんだろう。てことは爆発魔法は錬金術の親戚かもしれんな。知らんけど。


 たしかにガスがあれば弾丸は飛ぶ。だが単純に爆発力が高いだけだと銃身が先に破裂しちまう。現実の銃は銃身内の圧力が急上昇しないように装薬の燃焼速度をとても遅くしてる。装薬は爆薬と違うのだよ爆薬とは。


 仮に装薬みたいな燃焼速度、発生ガス量、膨張速度を爆発魔法で実現するなら、極めて精緻な爆発コントロールが必要となるだろうな。


 そこまで考えた魔法銃なら実現もできるだろう。だが使い捨ての小さな魔石にそこまで精緻な魔法を込められるかねえ。しかも量産でその精度を保てるか。一品ものならともかく、大量に銃と弾薬を用意するとなれば無理だろうな。


 じゃあ弾丸でなく魔法を直接発射すれば良いだろうって思うだろうが、それじゃダメなんだよ。


 魔法ってのは目視距離で放つ、つまり射程はせいぜい数十メートルほどしかない。その射程外から攻撃できないと銃の優位性が生まれない。いまだにこの世界で弓兵が有力な戦力なのもそれが理由だ。


 そもそも魔法を打つってだけの用途なら魔法杖ってのが既にある。魔法の種類と威力は固定だけど魔力源の魔石をセットすれば誰でも使える代物だ。


 まあつまり、火魔法でも爆発魔法でも銃には向いてないってことだ。


 ■□■□


 そう言えばアイツは違ってたな。


「すいません。特殊な鍛冶仕事を依頼したいのですが」


 10年前、アイツは一人でやってきた。トウヤみたいに女連れでチャラチャラもしてなかった。真面目そうな、というより少し暗い感じの少年だった。


「お願いしたいのはこれです」


「お、お前……これは!?」


 俺は驚いた。それは遠い記憶の中にしかない「図面」だった。部品ごとに、きちんと各部の寸法や材質、仕上げ、そして公差まで書かれていた。つまり地球の一般的な工業製品の図面と同レベルのものだった。


「分かりますか?必要なら詳しく説明しますが……」


「いや、いい。これで十分だ。むしろ十分すぎる」


「良かった、やっぱりあなたも……噂であなたの昔の話や仕事とかを聞いて、もしやと思いました」


 そしてアイツは、あっさりと自分も転生者だと明かしてきた。


 アイツは銃の構造にはやたらと詳しかった。前世はそういう会社の技術者だったそうだ。


「まずは単純な単発のボルトアクション小銃を再現します。うまくいけばガスオペレーションの自動小銃を作りたいですね。本当は弾薬の方も再現したかったんですが、残念ながら装薬の知識はなくて……」


「なるほど。それで魔法で代用しようって考えた訳だな」


 そういう訳で魔法を利用した銃を作ることになった。代金は出世払いってことで取らなかった。まあ俺も一緒に楽しませてもらったからな。


 アイツのアイデアはパーカッション式銃そのものだった。違うのは装薬がわりの魔石を薬室に、そして雷管がわりの起動用魔石を撃鉄側につけること。だから構造はフリントロック式に近い。


「魔法の方はどうするつもりだ?分かってると思うが火魔法じゃ駄目だぞ」


「はい、分かっています。自分は風魔法を使うつもりです。これでも一応は魔法使いなので」


 そしてアイツは、最初から火魔法や爆発魔法でなく風魔法を使うつもりだった。


 風魔法は、そこにある空気を動かす魔法と、爆発魔法みたいに空気を生み出してそれを動かす魔法の2種類があるらしい。突風を生む風魔法は空気を生み出す魔法らしかった。


 それなら熱の心配もない。風の速度も魔法の強さ次第だ。弾丸を飛ばすだけなら精緻な魔法のコントロールも要らない。魔石の加工も簡単だろう。


 そして銃身内で空気に押され十分な初速を与えられた弾丸の射程は、一般的な魔法の射程なぞ遥かに超えるだろう。つまり弓矢よりも速い弾丸で一方的に魔法使いを攻撃できる訳だ。


 弾丸の速度も風魔法の強度次第だ。なんなら音速を超すことも出来る。初速が増せば射程も威力も伸びる。魔法で弾丸に回転を与えれば命中精度も上がる。弓魔法のように発射後も魔法で風を纏わせれば誘導すらもできるだろう。


 アイツはそこまで考えて銃の製作を依頼してきた。すごいヤツだったよホント。


 ■□■□


 アイツがどうして銃を作ろうと思ったのかは俺には分からん。結局、アイツは最後まで目的を明かしてくれなかった。あの頃は単に中二病なんだろうなと勝手に思ってたが。


 アイツは平民だったから、もしかしたらフランス革命みたいなことを考えてたのかもしれない。ドワーフと違って人族の平民はなかなか生活が大変だ。この世界に不満があったのかもな。


 そしてアイツは完成した銃を取りに来なかった。


 ある日突然、行方不明になった。先に渡してた試作品も図面も、ありとあらゆるアイツの物も一緒に消え失せた。まるで最初から存在しなかったみたいに。


 それはきっと俺のせいだ。そしてやったのは間違いなくレティシアだ。


 レティシアは俺が転生者だと知っている。俺がまだ冒険者だった頃に秘密を打ち明けて、それでも普通に接してくれたレティシアに俺は感謝した。


 あの頃は自分の知識をひけらかすのが楽しくて、色々とレティシアに地球のことを話してたな。レティシアも楽しそうに俺の話を聞いてくれた。そして決して他人には洩らさなかった。


 俺も若かったから銃を作ることを考えたりもした。そしてレティシアに銃というモノと、銃が生まれたことで貴族が力を失ったことを話してしまった。


 レティシアはきっとそれを覚えてたんだろう。


 もしかしたら王家や神殿はとっくに知っていたのかもしれない。この世界には過去にも転生者がいたはずなのに文明が意外と進んでない。レティシアだけじゃない。もっと上の奴らが噛んでなきゃ、この状況は説明できない。


 ■□■□


 10年前までは、俺は年に一度はレティシアに会っていた。侯爵家の魔物討伐や鍛冶仕事の依頼もよく受けてた。


 そしてある日、俺はアイツと銃のことをレティシアに話した。話してしまった。


 レティシアはその日も、いつも通り楽しそうに俺の話を聞いていただけだった。アイツが姿を消したのは、それからすぐの事だった。


 俺はすぐにわかったよ。レティシアが手を回したんだろうと。


 レティシアは言動こそ子供っぽいが中身はしっかり貴族だ。あの時、俺まで消されなかったのは間違いなくレティシアが守ってくれたからだろう。きっと裏で色々と大変だったに違いない。その点は今でも感謝してる。


 だがあれ以来、俺が侯爵家を訪ねることは無くなった。レティシアも俺に声をかけることが無くなった。


 それでも監視は続けてたんだろうな。


 そしてトウヤが俺に銃の製作を注文してきても、無能で野心も無いことが分かってたから失敗するまで放置してたんだろう。


 派手に失敗すれば誰も銃の本当の価値に気付かない。そして世界は今まで通り続いていくって寸法だ。きっとこんなのは銃に限った話じゃねえんだろうな。


 まったく、俺もこの世界が嫌いになりそうだぜ。久しぶりに火酒でも飲んで忘れちまおう。

銃は「バーン」て音とともに火を吹きますから、魔法で同じような感じにすればいいだろうって思いがちですが、そんなに単純じゃないって話です。


そして過去に転生者がいたとしても、貴族の封建社会を脅かすような発明は許されないでしょうね。

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― 新着の感想 ―
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