騎乗依頼
鶴崎春希は、栗東所属のフリーの騎手である。通算約4500騎乗、356勝、重賞8勝G1(ジーワン)1勝で世間からは、何となく中の中くらいの騎手と捉えられている。前年の阪神ジュベナイルフィリーズでの勝利により、2017年の騎乗依頼が増えつつあった。
「本当に自分でいいんですか、こんなにいい馬。ハープーンガンってG1馬ですよ?」
春希は厩舎に行き話された内容に、目を大きく見開いて驚きを隠せなかった。
「そんなん知ってるわ。サウジに遠征する馬の影響で、いつも乗ってる浜本が乗れなくなっちゃうって話をしたら、オーナーがこの前の阪神見てお前がいいっていうんだよ」
ハープーンガンの調教師の三上は笑いながらそう答えた。
「鶴崎は、どう思う今回使おうと考えてる京都記念とこの馬合うと思うか?」
ハープーンガンは、前年大阪杯を勝ったがその後成績はまぁまぁで今年は大阪杯連覇に向けてレースを組んでいた。
鶴崎自身は、前年の大阪杯でのハープーンガンの1馬身差3着の馬に乗っておりその時のイメージを話し始めた。
「あの馬自体が余りハイペースになると良くないからいい感じだと思います。大阪杯で勝った時もスローでうまく前めにつけて最後抜け出したようなレースでしたから。」
鶴崎は三上からの問いに対しそう答え、三上が頷きハープーンガンの京都記念行が決定した。
レース2週間前
春希はハープーンガンの追い切りに乗った。三上からの馬を動かして欲しいと言う要望に見事答え、2週前追い切りで好時計を刻んだ。
しかし問題が発生したのは、レース当週の最終追い切りである。
「サラッと乗って最後の調整って感じでいくから、時計は余り気にしないでいい」
三上からの要望は、こうであった。だか、調教に入った途端ハープーンガンが異常なほど掛かってしまい、最終追い切りでは、制御不能に近い状態になり時計は見事、減速の逆時計を記録した。
「本当にごめんなさい。先週あんなに良かったのに、こんな最悪な騎乗してしまい。」
鶴崎は今にも泣きそうな顔をしながら、三上に謝った。三上は、謝罪に対しちょっとムスッとしながら口を開いた。
「全部ぶち壊れたように思える気もするが、まぁここは叩きに近いって前々からオーナーに説明してたから許そう」
そう言われ、救われたような救われてないような気持ちになりながら厩舎をあとにした。その後頭のなかでどうしようどうしようと思いレース当日を迎えた。
レース当日、鶴崎は3歳1勝クラスで勝利したが不安が拭えぬままパドックから返し馬に向かった。




