【22-4☆】眠れない夜と、脳筋の寝相
最悪だ。
ボクは大きなベッドの端に身を固くし、壁の方を向いたまま動けずにいた。
背後から伝わってくるのは、規則正しい寝息と、ありえないほどの体温。
――暑い。
いや、暑いとか、そういう問題じゃない。
(なんで……なんでこうなるんだ……!)
背中越しに感じるのは、岩のように硬い胸板と、筋肉の塊が発する生き物じみた熱。
ただ寝ているだけなのに、存在感が強すぎる。
(落ち着け……落ち着くんだ、ボク……)
心臓が、うるさい。
自分のものとは思えないほど大きな音で、胸の内側を叩いてくる。
(ただの巨大な湯たんぽだ。
そう、筋肉でできた、少し熱いだけの……)
そう言い聞かせ、目を閉じた、その瞬間だった。
ぐいっ。
背後から伸びてきた巨大な腕が、いとも簡単にボクの体を引き寄せた。
「――――っ!?」
声にならない悲鳴が、喉の奥で詰まる。
硬い。
温かい。
そして、近い。
背中に密着する胸板。
逃げ場を塞ぐ腕。
耳元で感じる、静かな寝息。
(え? え? ええええええええ!?)
思考が、完全に止まった。
(こ、こいつ……起きて……!?
いや、でも……寝息は、変わってない……?)
恐る恐る耳を澄ます。
聞こえるのは、穏やかで無防備な呼吸だけ。
(ね、寝ぼけてる……?
だとしても、これは……これは……!)
どうする。
振り払う?
起きたら最悪だ。説明なんてできるはずがない。
(このまま……耐える……?
……いや、無理だろ……)
そう思っているのに、
なぜか、体は強張ったまま動かなかった。
近すぎるはずなのに、
包まれている感覚が、妙に――落ち着いてしまっている。
(……おかしい……)
混乱しているはずなのに、
心臓の音が、ほんの少しだけ、さっきより静かになっていた。
そんな時だった。
「……にく……むにゃ……あと、三枚……」
間の抜けた寝言が、静かな部屋に落ちる。
……肉?
ボクは、意を決して、ほんの少しだけ振り返った。
そこにいたのは――
ただ幸せそうな顔で、ボクを巨大な肉の塊か何かと勘違いし、しっかりと抱きしめたまま眠る、完全無防備な脳筋の姿だった。
「…………この、大馬鹿者……!」
一気に力が抜ける。
怒りがこみ上げてくるはずなのに、
それと同時に、胸の奥に、ふっと小さな安堵が落ちた。
(……起きてない、か)
そう分かった途端、逆に身動きが取れなくなった。
この腕を振り払えば、起こしてしまうかもしれない。
それに――
(……あったかい)
認めるのは、癪だったけれど。
結局ボクは、そのまま動けず、
巨大な腕に閉じ込められたまま、夜が明けるまで一睡もできなかった。
翌朝。
何も知らない顔で、護が大きく伸びをしながら言った。
「おー、メル。昨日はよく眠れたか?」
……ぷつり。
「君のせいで最悪の夜だった!!」
顔が熱くなる前に、思いきり八つ当たりした。
護は「え? なんで?」と本気で分からなそうな顔をしている。
それがまた、腹立たしい。
少し離れた場所で、その様子を眺めていたカゲロウが、
ほんの一瞬、確かに笑みを浮かべていたことに、
ボクはまだ気づいていなかった。
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