【22-1】海賊の街ポルト・リベルタ
数日間に及ぶ船旅を終え、磐座護、カゲロウ、メルの三人は、ついに次なる目的地――
リベルタリア自由都市同盟の玄関口、ポルト・リベルタに降り立った。
港に足を踏み入れた瞬間、空気が一変する。
潮の香りに、異国のスパイスの刺激的な匂い。
そして、一攫千金を夢見る者たちの、剥き出しの欲望と熱気。
エルドラド王国で感じた気品や秩序とは、まるで別世界だった。
ここにあるのは、自由と無法が混ざり合った、荒々しい生命力だ。
屈強な船乗りたちが裸同然の格好で歩き回り、派手な身なりの商人が金貨の音を鳴らしながら値を釣り上げる。
腰に錆びた剣を提げた海賊たちは、昼間から酒場でジョッキを打ち鳴らし、大声で笑っていた。
「すげぇ……!」
思わず声を上げたのは護だった。
目を輝かせ、辺りを見回す。
「なんだこの街! 活気があってよ、美味そうなもんの匂いもするし、最高じゃねぇか!」
まるで初めて祭りに連れてこられた子供のような反応だ。
一方、その少し後ろを歩くカゲロウは、表情を硬くしたまま周囲に視線を走らせている。
人の流れ、建物の陰、背後の気配――
どれ一つとして、油断していなかった。
「……静かな場所とは程遠いな。
油断すれば、背中から刺されかねん」
低く呟くその声には、長年の放浪で染みついた警戒心が滲んでいる。
メルもまた、街を一目見ただけで冷静な評価を下した。
「フン。野蛮で、下品で、非合理的。
……だが、それだけに物と情報が集中する街だ。価値はある」
三者三様の感想を胸に、三人は歩き出す。
まずは、この街での活動拠点――宿を確保するためだ。
しかし、その判断が甘かったことを、彼らはすぐに思い知らされる。
「悪ぃな兄ちゃん、今日は満室だ。
この街じゃ、寝床を取るのも実力のうちさ」
「ガキ連れとカタギはお断りだ。他を当たりな」
「満室だって言ってんだろ! とっとと失せな!」
どの宿を訪ねても、返ってくる答えは同じだった。
世界中から腕利きの冒険者や、一攫千金を狙う無頼漢が集まる街では、宿の一室すら貴重なのだ。
気がつけば、陽は傾き始めている。
大通りの片隅で足を止め、三人は顔を見合わせた。
「参ったな……このままだと野宿か?」
護が頭をかきながら言う。
「俺はいいけどよ、メルが風邪ひいちまうぞ」
からかいではない、素直な心配の言葉だった。
その瞬間――
「おや、お困りのようだね、冒険者さん」
艶のある声が、背後からかかる。
振り返ると、港近くの一等地に構えられた、ひときわ賑やかな酒場が目に入った。
血のように赤い薔薇が描かれた看板――
酒場。
その入口に立っていたのは、煙管をくゆらせる、妖艶な雰囲気の女主人だった。
「噂の『クラッシャー』さんじゃないか。
マリーナでの大活躍、ここリベルタリアにも届いてるよ」
意味ありげな笑みを浮かべ、女は護を見る。
「あんたほどの有名人が、まさか宿無しとはね」
「俺のこと、知ってんのか!?」
護は目を見開いた。
「この街に流れ着かない情報はないのさ。
オーガロードを単独で倒したことも、スタンピードを二人で止めたこともね」
女は、ちらりと視線を滑らせ、カゲロウを見る。
「……もっとも、あたしが興味あるのは、武勇伝より――
そっちの、影のあるいい男の方だけど」
挑むような視線を向けられ、カゲロウは無言で睨み返した。
自由と無法の街、ポルト・リベルタ。
そして、胡散臭い女主人との邂逅。
この夜が、ただの宿探しで終わらないことを、三人はまだ知らない。
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