【21-1】嵐の後の会議
王都アウロラの路地裏にある安宿の一室。 窓の外はすでに茜色の夕焼けから、群青色の夜へと移り変わろうとしていた。街からは一日の終わりを告げる鐘の音が遠く聞こえてくるが、この狭い室内には、それとは対照的な、ピリついた緊張感が充満していた。
「……いいかい、脳筋。君のその、後先を考えない単細胞な行動が、どれだけ我々の心臓に悪いか、少しは理解しているのか?」
部屋の中央、腕を組んで仁王立ちするメルが、氷点下の視線を眼下に下ろしている。その小さな体からは、歴戦の魔物ですら裸足で逃げ出すような怒りのオーラが立ち昇っていた。 その足元では、身長二メートルを超える巨体の護が、借りてきた猫のように小さく縮こまり、窮屈そうに正座をしていた。
「うぅ……わりぃ……」
「『わりぃ』で済むなら憲兵はいらないんだよ! パーティーになんの連絡もなく、丸一日以上も姿をくらますとは、どういう了見だ! もし君が、一人で公爵の残党の罠にでもかかっていたら……もし、誰にも知られずに野垂れ死んでいたとしたら、ボクたちはどうすればよかったんだ!」
メルの言葉は鋭い刃のようだったが、その声の端々は微かに震えていた。 彼女の瞳の奥には、怒り以上に深い、安堵と心配の色が滲んでいる。彼女にとって、目の前の巨漢はもう単なる護衛対象ではない。失った家族の温もりを思い出させてくれる、かけがえのない存在になりつつあったのだ。だからこそ、その喪失を想像しただけで、彼女は取り乱してしまう。
「へへ……悪かったよ、メル。マジで心配かけて」
護はバツが悪そうに頭をかきながら、ポツリポツリと弁解を始めた。
「でもよ、聞いてくれよ。孤児院の子供たちが大変だったんだ! 公爵の手下の借金取りに、商品として売られそうになってたんだぜ? 放っておけるわけねえだろ」
護の瞳に、真剣な光が宿る。
「そこの名前が『ひまわりの家』っていうんだけどな……俺が昔いた『ひだまりの家』と名前が似ててさ。ばあちゃんや子供たちを見てたら、なんか他人事とは思えなくてよ……どうしても、守ってやりたかったんだ」
護が語る、事の顛末。 悪徳貴族の残党による人身売買の企み。それを未然に防ぎ、子供たちの笑顔を守ったこと。そして、そのために自分の時間を使い、連絡を忘れてしまったこと。 その話を聞くと、張り詰めていたメルの肩から力が抜けた。大きく、深いため息が部屋に落ちる。
「……はぁ。君というやつは、本当に……どこまでもお人好しな馬鹿者だね」
メルは呆れたように首を振るが、その表情にはもう険しさはない。むしろ、諦めにも似た慈愛が浮かんでいた。
「まあ、いい。君がそういう、困っている人を見捨てられない男だということは、もう嫌というほど分かった。……子供たちを助けたこと自体は、評価してやる」
「おっ! 許してくれるか!?」
「だが! 今後は必ず『報告・連絡・相談』をすること! いいかい、これは『ホウレンソウ』と言って、組織として動く上での基本中の基本だ! これが守れないなら、君の食事は一週間ピーマン尽くしにするからな! 約束しろ!」
「ピ、ピーマンだけは勘弁してくれ! 分かった! 約束する! 絶対にするから!」
護は顔を青くして、首がもげるほどの勢いで頷く。 その滑稽なやり取りを、壁際で腕を組んで見ていたカゲロウが、フッと口元を緩めた。
「……これじゃあ、誰がリーダーか分からんな。完全に尻に敷かれているぞ、護」
「なっ……! べ、別にボクは、リーダーの座を狙っているわけでは……! ただ、この脳筋の管理が必要だと判断してだね……!」
カゲロウのツッコミに、メルが顔を赤くして慌てて言い訳をする。
「え!? このパーティーのリーダーは俺だぞ! 俺が作ったんだからな!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるよ。……手のかかるリーダーだ」
メルは優しく笑った。 三人の間には、もはや遠慮のない、家族のような温かい空気が流れていた。 激動の王都編を経て、彼らの絆は、言葉以上の信頼で結ばれた、鋼のように強固なものになっていた。
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