【20-5】ひまわりの食卓
「ばあちゃん! 冒険者の、でっかい人が来たよ!」
獣人の少年レオの声で、孤児院『ひまわりの家』の古びた扉が開いた。 出てきたのは、小柄だが背筋の伸びた老婆、院長のマーサだった。白髪をきっちりと結い上げ、質素な修道服に身を包んでいる。 彼女は最初、護の巨体を見て子供たちを庇うように身構えたが、彼らが笑顔で護の手を引いているのを見て、すぐに柔和な表情を浮かべた。
「おやまあ……。お客様かい? それに、その大きな荷物は……」
「俺は磐座 護! ギルドから薬草採取の依頼を受けてきたんだ! ついでに、晩飯の材料も現地調達してきたぜ!」
護が背後に引きずっていた巨大なフォレストボア(森猪)をドスンと下ろすと、マーサは目を丸くして絶句した。
「ま、まさか……本当に来てくださるとは。あの依頼は報酬も出せないものですのに……」
「そんなことはいいんだ。それより腹減ったろ? キッチン借りるぜ! みんなで美味いもん食おう!」
護は遠慮するマーサを押し切り、子供たちを引き連れてキッチンへと雪崩れ込んだ。 エプロン(サイズが合わず前掛け状態)をつけた護が、指揮を執る。
「よし、お前ら! 手伝え! レオは野菜を洗ってくれ! アンナは皿の用意だ!」
「はーい!」
護は手際よく猪を解体していく。血抜きをし、持参した薬草や香辛料で臭みを消す。固い部位はミンチにし、骨からは濃厚な出汁を取る。 ただの力任せではない。食材への敬意と、食べる人への愛情がこもったプロの料理人の手つきだ。
「お兄ちゃん、すごーい!」
「色んな料理店でバイトしてたからな!こんぐらい朝飯前よ!」
やがて、『ひまわりの家』には久しぶりに、肉の焼ける香ばしい匂いと、スパイスの食欲をそそる香りが充満した。 食堂のテーブルには、大皿料理が所狭しと並べられる。 猪肉の香草焼き、根菜たっぷりの猪汁、そして肉の脂で炒めた特製チャーハン。さらには即席のデザートまで。
「いっただきまーす!」
子供たちの元気な声が響く。久しぶりのご馳走に、みんな夢中でかぶりついた。
「んん~っ! お兄ちゃん、これ、すっごく美味しい!」
「お肉やわらかい! 肉汁がじゅわってする!」
「おうおう、たくさん食えよ! おかわりもあるからな!」
護は、口の周りをソースだらけにして笑う子供たちの姿を、心から嬉しそうに眺めていた。その光景は、記憶の中にある故郷の施設での食事風景と重なる。騒がしくて、温かくて、何よりも安心できる場所。 マーサも、久しぶりに見る子供たちの満腹そうな顔に、涙ぐみながらスプーンを運んでいる。
食事が終わり、子供たちが満足して寝静まった後。 静まり返った食堂で、護はマーサから孤児院の事情を聞いていた。
「……実は、この孤児院には、身に覚えのない多額の借金がかけられているのです」
マーサは重い口を開いた。
「先日、役人を名乗る男たちが来て、この土地の権利書が書き換えられたと言い出しました。元々ここは王家の直轄地だったはずなのですが……彼らは『フェルディナント公爵閣下の都市開発計画』のためだと言って、法外な立ち退き料か、借用書へのサインを迫ってきたのです」
「公爵……?」
護の眉がピクリと動く。またあの名前か。
「ええ。抵抗しましたが、彼らは子供たちを人質に取り……泣く泣くサインをしてしまいました。ですが、彼らの狙いは金ではないのです。最初から、子供たちを……『商品』として確保することが目的だったのです」
マーサの声が震える。 公爵、開発計画、そして子供たち。 点と点が繋がる。これは借金取り立てなどではない。公爵が裏で糸を引いていた、闇市場への供給ルートの一つなのだ。 あの地下室で見た、鎖に繋がれた子供たちの姿が、護の脳裏をよぎる。
「……許せねえ」
護の声が低く唸るように響いた。 かつての自分と同じような子供たちを、物のように扱おうとする外道ども。絶対に許しておくわけにはいかない。
「ばあちゃん、安心しな。今日はここに泊めてくれ。俺がついてる」
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