【20-4】森の小さな冒険者たち
王都から少し離れた、鬱蒼とした森。 護は指定された薬草『星見草』を探して、獣道を歩いていた。 太陽の光が木漏れ日となって降り注ぐ平和な森だが、護の野生の勘は、周囲に潜む気配を敏感に察知していた。
「ん? この足跡は……フォレストボアか。結構デカいな。……近くにいる」
湿った土に残された、蹄の跡。まだ新しい。 護が晩飯のおかず(猪鍋)に思いを馳せようとした、その時だった。
「キャアアアッ!!」
「こ、こないでぇ!」
森の奥から、子供の悲鳴と、魔物の荒々しい咆哮が聞こえてきた。
(近い!)
護の目の色が変わる。 彼は地面を蹴り、巨体を弾丸のように加速させた。木々を縫い、茂みを飛び越え、声のした方へ駆けつける。
開けた場所に出ると、そこには三人の子供たちがいた。 木の根元で腰を抜かしているのは、人間の女の子。その前で、震える手で木の棒を構えているのは、獣人の男の子と、まだ小さな獣人の女の子だ。 彼らの目の前には、興奮して鼻息を荒くする、巨大な森猪がいた。その牙は鋭く、子供の体など容易く貫けそうだ。
「あっちいけぇ!」
男の子が棒を振るが、猪は意に介さず突進の構えを見せる。
「危ねえ!」
護は叫ぶより早く、子供たちと猪の間に割って入った。 背中で子供たちを庇い、突進してくる猪の正面に立つ。 武器を抜く必要すらない。
「ふんっ!」
護は、猪の鼻先めがけて、強烈なデコピンを叩き込んだ。
バチンッ!!!
乾いた破裂音が森に響く。 数百キロはある巨体の猪が、その一撃で脳を揺らされ、白目を剥いてその場にひっくり返った。ピクピクと痙攣し、完全に伸びている。
静寂が戻る。 助けられた子供たち――しっかり者の人間の女の子アンナ、少し気の弱い狼獣人の男の子レオ、そしてまだ言葉もおぼつかない小さな猫獣人の女の子ミミ――は、目の前の岩のような巨漢と、一撃で沈んだ魔物を見て、状況が理解できずに固まっていた。 そして、遅れてやってきた恐怖と安堵で、一斉に泣き出した。
「うわーん! こわかったよー!」
「ひっく……ひっく……!」
「おっと、泣くな泣くな! よしよし、大丈夫か? もう怖くねえぞ。俺が、悪い奴は全部やっつけちまったからな!」
護は慌ててしゃがみこみ、三人の目線に合わせて変な顔をしてみせたり、「いないいないばあ」をしたりして必死にあやす。 その不器用だが温かい雰囲気に、子供たちは次第に泣き止み、キラキラした瞳で護を見つめ始めた。
「……おにいちゃん、だれ?」
アンナがおずおずと尋ねる。 護は、胸を張って答えた。
「俺か? 俺は磐座 護! 最強の冒険者だ! ……お前さんたち、こんな危ないところで何してたんだ?」
「あのね、薬草を探してたの。マーサおばあちゃんの咳が止まらないから……」
レオが、握りしめていた萎びた薬草を見せる。それは、護が探していた『星見草』だった。 自分たちのことではなく、育ての親のために危険な森に入った子供たち。 その健気な姿に、護の胸がチクリと痛んだ。
「そうか……偉いな、お前ら」
護は、彼らの頭を大きな手で撫でた。
「俺も、近くの孤児院に用があるんだ。そこ、お前たちの家か?」
「うん! 『ひまわりの家』だよ!」
子供たちの口から出たその名前に、護はまた少しだけ口元を緩めた。
(やっぱりな。ここには、俺の知ってる『家』と同じ匂いがするぜ)
「そうか! じゃあ、一緒に行こうぜ! ついでに、こいつも持って行って、みんなで食おう!」
護は、気絶した森猪の後ろ足をロープで縛って引きずりながら、アンナとミミを軽々と両肩に乗せた。
「うわー! 高い!」
「きゃっきゃっ!」
護の肩の上で二人がはしゃぐ。その手を、レオがはにかみながら握った。 一行は、夕暮れの森を抜け、孤児院への帰路についた。
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