【20-3】受付嬢の溜息と、小さな依頼
再びあてどなく歩き始めた護だったが、やはり手持ち無沙汰感は否めない。 足は自然と、冒険者組合アウロラ支部へと向かっていた。
壮麗な神殿のようなギルドに入ると、受付カウンターには、あの上品な受付嬢、エレオノーラが座っていた。今日も完璧な所作で書類を捌いている。
「やあ、エレオノーラさん! 今日も綺麗だね! 仕事熱心で偉いな!」
「まあ、磐座様。ごきげんよう」
エレオノーラは手を止め、柔らかな微笑みを向けた。
「本日はどのようなご用件で?」
「俺、今暇でさ。一日で終わるような、なんか面白い依頼とかねえかと思ってよ」
護がカウンターに身を乗り出す。 エレオノーラは困ったように依頼リストをめくった。
「一日で、ですか……。磐座様ほどの腕利き(Cランク)が受けるような討伐依頼は、どれも数日がかりの遠征が必要なものばかりでして……。近場の依頼は、新人のFランクやEランクの方々が受けるような雑用しか残っておりませんわ」
「なんでもいい! ランクなんて気にしねえ! 体が鈍っちまうんだよ! 依頼なら、雑用だろうが何だろうがやるぜ!」
その真っ直ぐで屈託のない言葉に、エレオノーラの瞳がわずかに揺れた。彼女は少し考え込み、カウンターの下から、一枚の古びて端が破れかけた依頼書を取り出した。 それは、正規のボードには貼られず、ずっと保留にされていたものだった。
「……あの、本当に報酬はお支払いできない、むしろ足が出てしまうような依頼なのですが……よろしいでしょうか?」
依頼主は、下層街の近くにある孤児院『ひまわりの家』。 内容は、「子供たちの風邪薬を作るための、特定の薬草の採取と納品」。 報酬は、銅貨数枚と、手作りのパン。 危険な森に入る必要がある割に報酬が低すぎ、Fランク冒険者ですら敬遠して誰も受け手がつかない「不良債権」のような依頼だった。
「『ひまわりの家』……?」
護が依頼書の名前に目を留めて呟く。 その響きに、彼の心奥にある懐かしい記憶が呼び覚まされた。
(俺が育った『ひだまりの家』と、名前が似てやがるな……)
元の世界で、両親の顔を知らない護を育ててくれた養護施設。厳しくも優しかった園長や、騒がしい兄弟たち。名前の響きが重なっただけで、護の中に言いようのない親近感が湧き上がってきた。
「この孤児院は、国からの助成金だけで運営されているのですが、昨今の情勢不安で孤児が増え、経営が苦しいのです。院長のマーサさんというご老人が、たった一人で必死に切り盛りしているのですが……」
エレオノーラは、祈るように護を見つめた。
「もし、もしよろしければ、磐座様。無理を承知でお願いいたします。孤児院の子供たちのために、お力を貸していただけないでしょうか……」
護は依頼書を受け取ると、ニカっと笑った。
「おう、任せとけ! エレオノーラさんが言うなら断れねえし、何より……なんか他人事じゃねえ気がするからな! 俺がやらなきゃ誰がやるってんだ! マッハで終わらせてくるぜ!」
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