【20-2】芸術家のアトリエと、黄金の硬貨
あてもなく王都の街をぶらついていた護は、ふと、先日出会った強烈な個性を持つ老人のことを思い出した。
「そうだ! ヴィンチの親父のところに行ってみるか! モデルの約束、果たしとかねえとな! あいつなら、暇つぶしにはなりそうだ」
護は記憶を頼りに芸術家地区へと足を向けた。 絵の具と石膏の匂いが漂う路地を抜け、奇妙なねじれたオブジェが並ぶアトリエの扉を叩く。
「よう親父! 来たぜ! モデルになりに来てやったぞ!」
「おお、護殿! ……と言いたいところだが、すまないね!!」
アトリエの中では、ヴィンチが巨大なキャンバスに向かい、鬼気迫る形相で筆を走らせていた。髪を振り乱し、スモックは絵の具まみれだ。 奥のソファには、引きつった笑顔でポーズをとり続ける、恰幅の良い貴族の男性が座っている。
「今はあいにく、こちらの伯爵様の肖像画の制作で、一分一秒たりとも手が離せないのだよ! 筆が乗っているのだ! 君という最高のモデルを前にして筆を取れないとは、芸術家として断腸の思い、まさに魂の拷問だが……!」
ヴィンチは筆を指揮棒のように振り回し、芝居がかった仕草で嘆いて見せた。その目には狂気じみた集中力が宿っており、今は何を言っても無駄そうだった。
「そうか、仕事中か。そりゃ悪かったな! また出直すぜ!」
護があっさりと帰ろうとすると、ヴィンチは「待て、これを渡し忘れていた」と、作業机の引き出しを乱雑に漁り、一枚の硬貨を取り出した。
「先日の夜会でのモデルの礼だ。少ないが、受け取ってくれたまえ」
投げ渡された硬貨を、護はパシリと空中で受け止める。 それは、金と銀が複雑に混ざり合ったような、不思議な輝きを放つコインだった。表面には王国の紋章である双頭の鷲、裏面には精巧な女神の横顔が刻まれている。ずしりと重く、掌に吸い付くような感触があった。
「え、いいのかよ! サンキューな、親父! これでジュースでも買うわ!」
護は、そのコインがエルドラド王国建国記念に極少数だけ発行された、金とミスリル銀の合金で作られた記念硬貨であり、収集家の間では屋敷が一軒買えるほどの価値があることなど知る由もなかった。 彼はそれを無造作にズボンのポケットに突っ込むと、アトリエを後にした。
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