【20-1】取り残された英雄と、平和な朝の憂鬱
王都アウロラの路地裏にある宿屋。 公爵邸での激闘から数日が経過し、街にはいつもの活気が戻りつつあった。朝日が差し込む宿の食堂では、護が山盛りのパンと分厚いベーコン、そして木の実が入ったサラダを前に、いつものように旺盛な食欲を見せていた。
「んぐ、んぐ……ぷはっ! やっぱ平和な朝飯は最高だな!」
ジョッキに入ったミルクを一気に飲み干し、護は満足げに息を吐く。 向かいの席では、セラフィーナが優雅に紅茶を啜っていた。騎士の礼装ではなく、簡素なシャツ姿だが、その凜とした佇まいは隠せない。ただ、その眉間には微かに疲労の色が滲んでいた。
「……皆様、本当に申し訳ありません」
カップをソーサーに置き、セラフィーナが申し訳なさそうに切り出した。
「フェルディナント公爵の尋問が本格化しましたが、規定により、騎士団員であるわたくし以外の同席は認められませんでした。貴族院の介入もあり、手続きが難航しておりまして……おそらく、全てが終わるまでにあと二、三日はかかるかと」
「そっか! そりゃあ大変だな、セラフィーナちゃん! 俺たちのことは気にすんなって。悪党をきっちり締め上げて、アーサーの無念を晴らしてやってくれ!」
護が豪快に笑い飛ばすと、セラフィーナは救われたように、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます、護殿。……では、行ってまいります」
彼女は一礼すると、颯爽と騎士団の詰所へと向かっていった。 残されたのは、護、カゲロウ、メルの三人。テーブルには、食後の緩やかな空気が流れている。
「さて、と。脳筋が暇を持て余して何かやらかす前に、ボクは用事を済ませてくるとしようか」
メルが立ち上がり、愛用の鞄に分厚い魔導書や筆記用具を詰め込み始めた。
「王都にしかない希少な触媒が、市場に出回っているかもしれないからね。それに、王立図書館の閲覧許可がようやく下りたんだ。モルゴーの研究に関連する文献等もっと詳しく調べてくる必要がある」
メルは眼鏡の位置を直しながら、護をジロリと見た。
「君たちも、少しは座学というものをしたらどうだ? 筋肉ばかり鍛えても、脳みそが筋肉では意味がないぞ」
「へいへい。いってらっしゃい、先生」
「俺は、少し風に当たってくる」
カゲロウもまた、音もなく席を立った。
「あ? カゲロウもかよ? どこ行くんだ?」
「……路地裏の空気が吸いたいだけだ。」
そう言い残し、カゲロウはひらりと手を振って出て行ってしまった。彼なりの情報収集か、あるいは単に一人になりたいだけか。 メルも「大人しく留守番でもしていろ。間違っても問題を起こすなよ」と釘を刺して図書館へ向かい、食堂には護一人だけが取り残されてしまった。
「…………」
護は残ったパンの屑を指で拾いながら、ガランとした食堂を見渡した。 戦いが終わった直後の、この急に訪れる空白の時間。平和である証拠だが、根っからの行動派である護にとって、それは「退屈」という名の猛毒に等しかった。
「……暇だ」
部屋に戻り、大の字になってベッドに転がってみる。天井の木目を数えてみるが、三十を超えたあたりで飽きた。 筋トレをしようにも、宿の床が抜けるからと女将に禁止されている。
「あーもう! じっとしてらんねえ!」
護は跳ね起きた。
「よし、街へ繰り出すか! 何か美味いもんでも探そう!」
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。




