【43-2】攻略本なきボス戦への不安
決戦の時は迫っていた。
一行は変装を済ませ、セオドアが用意した裏ルート用の馬車に揺られていた。
車内には重苦しい緊張感が漂っているが、特にメルの表情は硬かった。
メルは膝の上で組んだ指先を、落ち着きなく何度も動かしている。
「……なぁ、メル。さっきから難しい顔して、何考えてんだ?」
向かいに座る護が、退屈そうに欠伸を噛み殺しながら尋ねた。
メルはハッとして顔を上げ、わずかに躊躇った後、抱えていた不安を吐露した。
「……シミュレーションしていたんだ。先日の『死を呼ぶ森』で遭遇したキメラのことだよ」
メルは視線を落とす。
「あれは失敗作だった。だが、腐ってもモルゴーの作品だ。
もし……完全な『不死性』を持つ生体兵器を完成させていたらどうする?」
それは、科学者だからこそ抱く、論理的な恐怖だった。
「物理的な損傷を瞬時に修復し、魔力が尽きるまで無限に再生する怪物……。
そんな『熱力学の法則』を無視した存在が出てきたら、ボクたちじゃ――」
「あー、はいはい。ストップ」
護が手刀でメルの言葉を遮った。
「つまり、『殴っても殴っても治っちゃうズルいボス』が出てきたらどうすんだ、ってことだろ?」
「……言い方は頭が悪そうだが、要約すればそうだ。理論上、そんな相手を倒す手段は――」
「あるぜ? ゲームならな」
護はニカっと笑い、事もなげに言った。
「俺がやってたゲームにもよくいたんだよ、そういう面倒くさいリジェネ(自動回復)持ちのボス。
そういう奴の攻略法は、大体決まって二つだ」
護は指を二本立てる。
「一つ。『再生速度が追いつかないくらいの超火力で、一瞬で消し飛ばす』。いわゆるDPSチェックってやつだな」
「……DPS?」
「で、もう一つは……『再生の核』をぶっ壊すことだ。
無限再生する奴ってのは、大体体のどこかに弱点の石っころが埋まっててよ。
そこをピンポイントで砕けば、再生が止まる」
メルは呆れてため息をついた。
「護……。現実はゲームじゃないんだ。そんな都合よく弱点が露出しているわけがないし、細胞レベルで再生する相手に『核』なんて概念が通用するかどうか……」
「いいや、通用するね」
護は断言した。その瞳には、根拠のない、けれど不思議な説得力が宿っていた。
「どんなに強そうなボスでも、作った奴がいるなら必ず『攻略法』はある。
無敵なんて存在しねえんだよ。……ま、もしそんなんが出てきたら、
俺が倒してやるから安心しな!」
ガハハと笑う護を見て、メルは毒気を抜かれたように肩の力を抜いた。
(……全く。この単細胞は、複雑な事象を単純化することにかけては天才だな)
だが、その単純さが今は救いだった。
「……ふん。せいぜい期待しておくよ、脳筋」
メルは小さく笑い、窓の外へ視線を向けた。
護の適当な「ゲーム脳理論」。だがこの時のメルはまだ知らなかった。
その言葉こそが、後に絶望的な戦況を覆す、唯一無二の「鍵」になることを。
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