【42-3】『最強』の出撃
アルドレッドが「穏健派への根回しにはまだ時間が……」と苦渋の表情を浮かべ、ゼノヴィアの血管が切れそうになった、その時。
それまで傍観を決め込んでいたリヒトが、薄い唇を歪めて笑った。
「……公式な手段では、手詰まりのようですね。
ですが皆様。一つだけ、盤上を動かすための面白い『駒』が、すでに現地に到着しているのですが……ご興味は?」
全員の視線がリヒトに集中する。
彼は、手元の資料をテーブルの中央に滑らせた。
「例の新人、『クラッシャー』ことイワクラ・マモル一行です。
彼らは現在、個人的な因縁でモルゴーを追い、マギア共和国に潜伏中。
そして重要なのは、彼らがモルゴーに敵対するセオドア侯爵の庇護下にあるという事実です」
アルドレッドが難色を示す。
「しかし、彼らが動けば、それこそ国際問題に……!」
「ご心配なく」
リヒトは人差し指を立ててチッチッ、と舌を鳴らした。
「彼らのバックには、ウィンズレイ家、そしてルミナス家という、二つの大貴族がついています。
彼らは、我々ギルドの命令系統とは関係のない、独立した『協力者』として動くことができる。
いわば、我々の手も届かない、治外法権の存在です」
その言葉を聞いた瞬間、ゼノヴィアの表情が変わった。
怒りが消え、代わりに肉食獣のような獰猛な笑みが浮かぶ。
「……ハッ! 面白い! あいつら、あたしがとやかく言う前に、もう喧嘩を始めてやがったか! 気に入ったぜ!」
リヒトは、ゼノヴィアの反応を待っていたかのように、最後の一手――『ジョーカー』を切った。
「皆様、お忘れかな? ワールド・ギルド・ユニオン憲章、第9条。
『ギルドは、所属する組合員の生命と安全を、あらゆる脅威から保護する義務を負う』」
リヒトは芝居がかった仕草で両手を広げる。
「我々が、他国へ軍隊を送り、モルゴーを『討伐』しに行くことはできない。これは侵略行為だ。
しかし……モルゴーの近くでたまたま活動している、
将来有望なギルド所属の冒険者が、『生命の危機に瀕している』となれば話は別です」
リヒトの瞳が、狡猾に光る。
「我々は、彼らを『救出』するという崇高な大義名分の下、堂々とマギア共和国に介入できる。
人命救助を妨げる権利は、いかなる国家にもありませんからね」
完璧な論理のすり替え。
法の抜け道を利用した、強引な一手。
アルドレッドは呆気にとられて唸り、ポルティアは「なるほど、それなら予算の名目は『緊急災害救助費』で……」と素早く算盤を弾き始めた。
そして。
それまで沈黙を保っていた総帥エイブラハムが、カッと目を見開いた。
その眼光は、老いてなお衰えぬ覇気に満ちていた。
「……無謀な賭けだ。しかし、闇が最も深い時にこそ、一筋の光は輝きを増すもの」
エイブラハムの視線が、ゼノヴィアを射抜く。
「ゼノヴィア、君に命じる。『組合員救出任務』のため、君が選ぶ最強の精鋭を率い、マギア共和国へ向かえ。
……だが、これは戦争ではない。くれぐれも、やりすぎるなよ?」
総帥の許可。
それを聞いたゼノヴィアは、立ち上がり、バキボキと指を鳴らした。
その全身から、室内の空気を歪めるほどの凄まじい闘気が立ち昇る。
「チームだと? ハッ!」
彼女は口の端を吊り上げ、凶悪極まりない笑顔で言い放った。
「あたしほどの英雄に、足手まといは必要ねえ! あたし一人で十分だ!」
最強の戦士が、ついに動き出す。
それは、手詰まりだった護たちの元へ、最大にして最凶の援軍が向かうことを意味していた。
嵐の予感が、マギア共和国へと近づきつつあった。
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