【42-2】円卓の憂鬱
ワールド・ギルド・ユニオン本部。
その最奥にある円卓会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
世界の均衡を司る最高幹部たちが集うこの場所で、情報総監リヒトが指先を動かす。
空中に投影された立体映像には、巨大な培養槽の中で不気味に脈動する肉塊――モルゴーの最高傑作『キメラ・プライム』の姿が映し出されていた。
「――以上が、マギア共和国におけるドクター・モルゴーの最新動向です」
リヒトの淡々とした報告に、扇子で口元を隠した妙齢の美女――財務長官ポルティアが眉をひそめた。
「趣味の悪い……。その『キメラ・プライム』とやらが完成し、野に放たれた場合の被害想定は?」
「最悪のケースを算出します」
リヒトがコンソールを操作すると、地図上のマギア共和国が瞬く間に赤く染まった。
「首都マギカは半日で壊滅。一週間後には、被害はエルドラド王国とアグナ帝国の一部にまで拡大。
物理的被害のみならず、魔導技術の流出による経済的損失は計測不能です」
その言葉に、室内の温度が数度下がったかのような冷気が走る。
単なる魔物の暴走ではない。
これは、国家存亡の危機だ。
「ざけんじゃねぇ!」
沈黙を物理的に破壊するような怒号が響いた。
戦闘総括長官、ゼノヴィアだ。
彼女は燃えるような赤髪を揺らし、拳で円卓を叩き割りそうな勢いで立ち上がった。
「話は単純だ! そんなやべえモンが完成する前に、あたしたちが乗り込んで、モルゴーごと叩き潰せばいいだけだろうが! なあ、グランドマスター!」
ゼノヴィアの鋭い視線が、上座で静かに目を閉じている老人――総帥エイブラハムに向けられる。
しかし、それに答えたのは、冷静沈着な男、渉外審議長アルドレッドだった。
「ゼノヴィアさん、お気持ちは分かります。ですが、それはできません」
アルドレッドは諭すように、しかし断固として首を横に振った。
「マギア共和国は、我々が提出したこれまでの証拠を『信憑性に欠ける』として、一切認めておりません。
彼らにとって、モルゴーは追放したとはいえ、元は自国の偉大な研究者。
他国、ましてやギルドごときが内政干渉することを、彼らのプライドが許さないでしょう」
「それがどうした! 人が死ぬんだぞ!」
「我々が許可なくマギア共和国に武力侵攻すれば、それは国際法への明確な違反行為です。
各国のギルドへの信頼は失墜し、最悪の場合、ワールド・ギルド・ユニオンは解体……。
そうなれば世界の秩序は崩壊し、それこそ魔王軍の思う壺です」
正論。あまりにも正しく、ゆえに救いのない論理。
「じゃあ、どうしろってんだよ! 指をくわえて、世界が滅ぶのを見てろってのか!」
ドンッ!
ゼノヴィアが再びテーブルを叩く。
頑丈なマホガニーの天板に、大きな亀裂が走った。
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