【41-1】一撃必殺、磐岩斬と狂宴の幕引き
ズゥゥゥン……
森の最深部を揺るがした衝撃が収まり、もうもうと立ち込めていた土煙が、夜風に流されていく。
『古月の主』が振り下ろした豪腕の直下。
地面は隕石が落ちたかのように深く抉れ、巨大なクレーターと化していた。
静寂が戻る。
誰もが、その一撃で勝負がついたと思った。
だが。
「……ってぇなぁ、クソ」
土砂の中から、ボロボロになった学ランをまとった男が、ふらりと立ち上がった。
護だ。
彼は衝撃が直撃する寸前、自ら地面を殴りつけて足場を崩し、さらに深く潜り込むことで致命傷を避けていたのだ。
とはいえ、ダメージは甚大だった。
全身の骨が軋み、視界が赤く明滅している。
(くそっ……! やっぱバケモンだわ、こいつ。普通に殴り合ってちゃ、ジリ貧だな……)
荒い息を吐きながら、護は脳裏で過去の記憶を手繰り寄せた。
トルトゥーガでの魔王軍幹部、ヴァルガスとの戦い。
そして、姉御――ゼノヴィアとの戦い。
(あいつらは、ただ力をぶつけてたんじゃなかった……。溜めて、練り上げて……一点に『ぶっ放して』た!)
護は閉じていた目を見開く。
その瞳から迷いが消え、代わりに鋭い光が宿る。
全身から噴き出していた赤い闘気が、シュウウゥ……と音を立てて収束していく。
体全体を覆う鎧ではなく、戦斧『岩砕き』の刃一点のみに全てを圧縮するイメージ。
怒りでも、闘争心でもない。
「必ず花を持ち帰る」という純粋な意志が、荒れ狂う気を一本の巨大な刃のように研ぎ澄ませていく。
『古月の主』が、トドメを刺すべく動き出した。
巨体が砲弾のように迫る。
護は逃げない。
ギリギリまで引きつけ、相手の懐へと飛び込む。
「グルルルルッ!」
主の爪が、護の頭上をかすめ、空気を切り裂く。
その瞬間、護は練り上げた全ての闘気を戦斧に乗せ、逆袈裟に振り抜いた。
「うおおおおおおッ!! 磐岩斬ッ!!」
凄まじい轟音と共に、放たれた闘気の塊は『古月の主』の巨体を飲み込んだ。
それは物理的な刃を超えた衝撃波となり、主の誇る鋼鉄の体毛を紙のように切り裂き、その屈強な角を根元から断ち折りながら、後方の岩壁に叩きつけた。
ズドォォォォォン!!!
岩壁が崩落し、土煙が舞い上がる。
森の主は、断末魔の叫びを上げる間もなく、白目を剥いて巨体を横たえた。
主を失った熊の群れは、圧倒的な力の差を見せつけられ、恐慌状態に陥った。
「グルアァァッ!?」
彼らは蜘蛛の子を散らすように、森の闇へと逃げ去っていく。
訪れた静寂の中、護はボロボロの体を引きずりながら歩みを進めた。
足元に転がっているのは、主の頭部から綺麗に切断された、身の丈ほどもある巨大な角だ。
「……へへっ、いい土産になりそうだ」
護は戦利品として、なんとなく切り落とされたその巨大な角を拾い上げ、肩に担ぐ。
そして泉へ近づくと、青白く輝く『夜光花』をそっと摘み取った。
「待ってろよ、メル。……特効薬、ゲットだぜ」
一方、セオドア邸の庭園。
カゲロウの体は、すでに限界を超えていた。
失血により意識が朦朧とし、立っているのがやっとの状態だ。
だが、彼の剣気は衰えるどころか、より鋭利に研ぎ澄まされていた。
「ハハハ! どうしたどうした! もうおねんねかぁ!?」
ザギが狂ったように短剣を振り回し、迫ってくる。
痛みを感じない彼は、自分の体がどれだけ傷つこうがお構いなしだ。
カゲロウは静かに息を吸い込み、刀を正眼に構えた。
(……痛みを知らぬ貴様に、痛みで分からせることはできん。ならば)
ザギの短剣が、カゲロウの喉元に迫る。
その刹那。
カゲロウの姿が、陽炎のように揺らぎ、消えた。
「あ?」
ザギが動きを止める。
次の瞬間、カゲロウはザギの背後に立っていた。
刀は鞘に納められている。
遅れて、ザギの全身から血が噴き出した。
斬ったのではない。
手首、足首、そして首筋の経絡を、峰打ちによる神速の連撃で正確に打ち砕いたのだ。
「が、は……? 体が……動かね……」
ザギはその場に崩れ落ちた。
痛みはない。
だが、命令系統を断たれた肉体は、ピクリとも動かない。
カゲロウは冷徹な瞳で見下ろした。
「貴様が望む『絶頂(死)』すら与えん。生きたまま、その狂った罪を償え」
動けぬまま、ただ虚空を見つめるザギを残し、カゲロウは静かに屋敷の方へと歩き出した。
「……護。遅いぞ……」
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