【40-2】庭園の凶刃と侍の矜持
一方、セオドア侯爵邸の庭園。
静寂を切り裂く金属音が響き渡っていた。
カゲロウの愛刀『夜叉』と、侵入者ザギの魔剣が火花を散らす。
「ヒャハッ! いい太刀筋だなぁ! ゾクゾクするぜぇ!」
ザギは奇怪な動きで剣を振るう。
関節の可動域を無視したような、軟体動物じみた剣撃。
予測不能な軌道がカゲロウを襲う。
だが、カゲロウの表情は氷のように冷徹だった。
「……無駄口が多い」
カゲロウは最小限の動きでザギの剣を弾き、踏み込んだ。
神速の居合い。
銀閃が走り、ザギの魔剣を根本から断ち切った。
「あぁ?」
武器を失い、呆然とするザギ。
勝負あったかに見えた。
しかし、ザギはニヤリと唇を吊り上げた。
がら空きになった左手には、すでに起爆寸前の魔道爆弾が握られていた。
「ハハッ! 馬鹿め!」
カゲロウの瞳が見開かれる。
至近距離での起爆。避ける術はない。
ドォォォォォン!!
庭園の一角を吹き飛ばす爆炎が、二人を飲み込んだ。
土煙が晴れていく。
カゲロウは片膝をつき、肩口から血を流していた。
とっさに爆風の直撃は避けたが、ダメージは深い。
「ぐっ……卑劣な……」
対して、爆心地にいたはずのザギは、ケロリとした顔で立っていた。
服は焼け焦げ、皮膚も爛れている。
普通なら激痛で動けないはずの傷だ。
だが、彼は平然としていた。
それどころか、退屈そうに首を鳴らした。
「なんだよ、今の爆発。全然気持ちよくねえな。もっとこう、内臓が飛び散るくらいの衝撃がねえとさぁ」
ザギは火傷を負った自分の腕を、まるで他人の肉のようにペタペタと触りながら、恍惚とした表情で語り始めた。
「俺はな、生まれつき痛みを感じねえんだ。どんなに斬られても、焼かれても、何も感じねえ。
だから生きてる実感がねえんだよ」
彼の瞳孔が開く。
狂気が溢れ出す。
「ただ一つ、人を殺す時だけは別だ。
相手が強ければ強いほど、その命を奪う瞬間、脳が焼けるような快感が走るんだよ!
だから頼むぜ、お侍さん! 俺を、最高の絶頂に導いてくれよぉ!」
痛みを知らぬがゆえに、死を恐れない怪物。
カゲロウは痛む肩を押さえながら、眼前の男がトルトゥーガで戦ったヴァルガスとは違う意味で、最悪の敵であることを悟った。
「さあ、第二ラウンドだ!」
ザギは懐から予備の短剣を二本抜くと、獣のように四つん這いになって襲いかかってきた。
防御を捨てた特攻。
カゲロウが鋭い突きを放ち、ザギの脇腹を貫く。
だが、ザギは止まらない。
剣が体に刺さったまま、さらに深く踏み込み、短剣を振るってくるのだ。
「ヒャハハハハ! もっとだ! もっと深く!」
「き、貴様……!」
カゲロウは舌打ちし、刀を引き抜いてバックステップで距離を取る。
肉を斬らせて骨を断つ、どころの話ではない。
自分の命すらチップにして、相手を殺しに来る。
常軌を逸した戦法に、達人であるカゲロウのリズムが徐々に狂わされていく。
庭園のあちこちに、カゲロウの鮮血が散った。
「なんだぁ? もう終わりか? つまんねえなぁ」
ザギは血まみれの顔でつまらなそうにカゲロウを見下ろした。
そして、視線をふと屋敷の方へ向ける。
「おっ、そうだ。あの家の中に、美味そうなガキとジジイがいたな。あいつらを殺せば、お前ももっと本気になるか?」
ザギが標的を変え、屋敷に向かって駆け出した。
その先には、メルと、治療中のカーバンクルがいる。
「させぬ!!」
カゲロウの全身から、凄絶な気迫が噴出した。
彼は痛む体を鞭打ち、疾風のごとくザギの前に立ちはだかる。
ザギが放った短剣の一撃。
カゲロウはそれを刀で受けるのではなく、あえて自らの左肩で受け止めた。
ズプッ、と肉に刃が食い込む音。
だが、それによってザギの動きが完全に止まった。
「あぁ? お前、馬鹿か?」
「……護と、約束したんでな」
カゲロウは至近距離でザギを睨みつける。
その瞳は、狂気に対する恐怖ではなく、揺るぎない使命感に燃えていた。
左肩から血を流しながらも、彼は右手の『夜叉』をザギの首元へと突きつける。
「俺が生きている限り、この先へは一歩も通さん。……ここが、貴様の墓場だ」
月の下、血に濡れた侍が、修羅のごとく吠えた。
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