【39-3】死を呼ぶ森の洗礼と忍び寄る影
マギアの北端。
『死を呼ぶ森』は、その名の通り異様な空気を放っていた。
月明かりすら届かぬ鬱蒼とした木々。
ねっとりと肌にまとわりつく湿気。
そして、風もないのにざわめく枝葉の音。
「うへぇ、気味の悪いとこだな……。お化け屋敷の方がまだマシだぜ」
護は独り言を呟きながら、藪をかき分けて進む。
その時、周囲の蔦が、生き物のように鎌首をもたげた。
シュルルッ!
無数の茨の蔦が、槍のような鋭さで護に襲いかかる。
「おっと!」
護は身を捻ってそれを躱すが、蔦は執拗に追尾し、彼の手足に絡みつこうとする。
「なんだぁ? 歓迎会にしちゃあ、痛すぎるんじゃねえか!?」
全身に赤い闘気を迸らせ、護は両腕を広げた。
ブチブチブチッ!!
鋼鉄よりも強靭なはずの蔦が、護の怪力によって呆気なく引きちぎられる。
「俺は急いでんだよ! 邪魔する草は、草むしりの刑だ!」
護は戦斧『岩砕き』を豪快に振り回した。
ゴオォン!!
風圧だけで前方の藪が消し飛び、道ができる。
繊細な魔力探知も、隠密行動も必要ない。
圧倒的な「個」の力が、死の森を強引に突破していく。
森の奥深くへと進むにつれ、空気中の魔素濃度が濃くなり、視界が青白く歪み始めた。
そして、開けた場所に出た。
そこだけ木々が途切れ、ぽっかりと空が見える。
満月の光がスポットライトのように降り注ぐ泉のほとりに、その花は咲いていた。
闇の中で淡く、幻想的な青い光を放つ花々。
『夜光花』の群生だ。
「あった……! これだ!」
護が安堵の息を吐き、花に近づこうとした、その瞬間。
ズウウゥゥン……
地響きと共に、巨大な影が護の前に立ちはだかった。
見上げれば、体長5メートルはあろうかという巨獣。
全身が苔と岩のような外皮に覆われ、頭部にはねじれた角を生やした、巨大な熊のような魔物だった。
『古月の主』。この森の頂点に君臨する守護者だ。
「グルルルルゥ……!!」
主の咆哮が、大気を震わせる。
その眼光は、侵入者を排除する殺意に満ちていた。
護はニヤリと笑い、戦斧を構え直す。
「へっ、やっぱりタダじゃくれねえよな。いいぜ、クマ公! 相撲なら負けねえぞ!」
一方、セオドアの屋敷。
静まり返った庭園で、カゲロウは石像のように佇んでいた。
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
風の音、虫の音、そして――それらに混じらない、微かな違和感。
(……来たか)
カゲロウが目を開くと同時に、庭の闇が揺らいだ。
音もなく現れたのは、全身を黒装束で包んだ数人の暗殺者たち。
そしてその中心に、一人の男が歪んだ笑みを浮かべて立っていた。 紫
色の髪に、奇妙なほど長い腕。
その手には、不気味な魔剣が握られている。
「ヒャハッ! ここが賢者サマのお屋敷かぁ? 警備がザルじゃねえの?」
男――『享楽のザギ』は、獲物を見つけた猛禽のような目でカゲロウを舐め回した。
「お? なんだ兄ちゃん。美味そうな魂がするじゃねえか。俺と遊んでくれるのか?」
カゲロウは無言のまま、鯉口を切る。
『夜叉』の刀身が、月光を受けて冷ややかに煌めいた。
「……ここから先は、一歩も通さん。死にたい奴からかかってこい」
護の激闘と、カゲロウの死闘。 長い夜が、始まろうとしていた。
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