【39-2】大岩の決断と約束
「おいおい、シケた面してんなぁ、メル」
背後から、底抜けに明るい声が降ってきた。
振り返ると、そこには護が立っていた。
いつものようにニカっと笑い、手には夜食用のサンドイッチを山盛りにした皿を持っている。
「護……。盗み聞きか?」
「人聞きが悪いな。差し入れに来ただけだぜ。んで、何か分かったのか?」
護はズカズカと部屋に入り込み、勝手に本を覗き込んだ。
「ん? 『夜光花』? こいつがありゃ、あいつは助かるのか?」
「……理論上はね。でも、場所が問題なんだ。
この『死を呼ぶ森』は、熟練の冒険者でも立ち入らない危険地帯で……」
メルが言い淀んでいると、護はあっけらかんと言い放った。
「なんだ、そんなことか。なら、俺が行ってくらぁ」
あまりに軽い調子に、メルは思わず立ち上がった。
「馬鹿を言うな! 君に何かあったらどうするんだ!
あそこは、ただ力が強いだけでどうにかなる場所じゃない!」
「メル」
護は、いつになく真剣な声でメルの名を呼んだ。
そして、その大きな掌を、メルの頭に優しく乗せた。温かく、分厚い手の感触。
「俺は行くぜ。お前はそいつのそばにいてやんな。
あいつは今、ひとりぼっちなんだ。痛くて、怖くて、震えてる。
一番必要なのは、薬じゃなくて『ひとりじゃない』って安心させてやることだろ?」
「……っ!」
メルは言葉を詰まらせた。
護の言葉は、技術や理論に囚われていたメルが忘れていた、最も根源的な救済の本質を突いていた。
「だーいじょぶだって! 俺を信じろよ。絶対にその『やこうか』ってやつを摘んで帰ってくる。……約束だ」
護は白い歯を見せてサムズアップをする。
その笑顔には、一切の不安も迷いもなかった。
それは、どんな絶望的な状況でも砕けない、鋼の信頼の証だった。
出発の準備はすぐに整った。
セオドアから夜光花の特徴を描いたスケッチと、森への地図を受け取った護は、玄関ホールで靴紐を固く結び直した。
背後には、愛刀『夜叉』を帯びたカゲロウが静かに控えている。
「護。俺も行く。あの森は、一人で行くには危険すぎる」
カゲロウが低い声で告げた。
だが、護は立ち上がり、首を横に振った。
「いや、カゲロウはここに残ってくれ」
「……何?」
「モルゴーの連中が、俺たちがここにいることを嗅ぎつけてねえ保証はねえ。
もし俺が留守の間に、メルやあのおっちゃん(セオドア)が襲われたらどうする?
守れるのは、お前しかいねえんだ」
護の瞳は真剣そのものだった。
自分は攻め、お前は守り。
互いの役割を完全に理解し、信頼しているからこその提案。
カゲロウは数秒間、護の瞳をじっと見つめ返し、やがてふっと短く息を吐いた。
「……分かった。こっちは任せろ。その代わり」
カゲロウは護の肩を、ドンと拳で叩いた。
「さっさと帰ってこい。土産話がつまらなかったら承知せんぞ」
「おう! 最高のお土産を持って帰ってくらぁ!」
護は戦斧『岩砕き』を背負い、夜の闇へと駆け出した。
二つの戦いが、今、同時に始まろうとしていた。
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