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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【39-1】消えゆく灯火

重い沈黙が、部屋の空気を澱ませていた。  

豪奢な天蓋付きのベッドの真ん中で、カーバンクルの子供は丸くなり、浅く速い呼吸を繰り返している。

その白銀の毛並みは艶を失い、月光石の輝きも風前の灯火のように揺らいでいた。


「さあ、これを飲むんだ……。ほんの一口でいい。これを飲めば、少しは楽になるから……」


メルは震える手でスプーンを差し出した。

中には、自身の知識を総動員して調合した特製の栄養剤が入っている。  

だが、カーバンクルは怯えたように身を縮こまらせ、口を開こうとしない。

彼にとって、人間から差し出されるものはすべて「痛み」と「恐怖」の記憶に直結しているのだ。  

カチャン、とスプーンが皿に当たる音が虚しく響く。


「……くそっ」  


メルは唇を噛み締め、膝の上で拳を握りしめた。  

錬金術の天才と呼ばれ、数々の難題を解決してきた自負があった。

だが今、目の前の小さな命ひとつ、救うことができない。

その無力感が、鉛のように胸にのしかかる。


そこへ、扉がノックもなく開かれた。

セオドア侯爵が、苦渋に満ちた表情で入ってくる。


「メル殿、申し訳ない。捕らえた男たちの尋問だが……全く進んでおらん」


「……口が固いのですか?」


「いや、そうではない。『記憶がない』のだ。

どうやら、強力な精神干渉魔法で、雇い主に関する特定の記憶だけを綺麗に消されているらしい。

まるで、使い捨ての道具のようにな」


セオドアは悔しげに壁を叩いた。  

手がかりは絶たれた。時間は刻一刻と過ぎていく。  

メルはカーバンクルの苦しげな寝顔を見つめ、絶望的な焦燥感に押しつぶされそうになっていた。


(ダメだ……諦めるな。考えるんだ、メルクリウス。知識の中に、必ず答えがあるはずだ!)


メルは逃げるように書斎へ駆け込み、山のように積まれた古代文献を片っ端から読み漁り始めた。  

ページをめくる音だけが、深夜の書斎に響く。  

魔獣生態学、古代魔法薬学、民間伝承……。

目につく限りの書物に目を通し、数時間が経過した頃だった。  

ふと、一冊の古びた植物図鑑の記述が、メルの目に止まった。


『――月光石の獣、魂の光が薄れし時、北の森に咲く“夜光花やこうか”の蜜を食み、命の輝きを取り戻す』


「これだ……!」  


メルは渇いた声を上げ、そのページを食い入るように見つめた。

『夜光花』。

満月の夜にのみ咲き、強力な魔力を秘めた蜜を蓄える幻の花。

その蜜には、傷ついた体を修復し、生命力を活性化させる奇跡的な効能があると記されていた。


だが、希望はすぐに冷水を浴びせられた。  

生息地の欄に記されていたのは、マギア共和国の北端に位置する禁足地――『死を呼ぶ森』。  

そこは、濃密すぎる魔素の影響で植物が怪物化し、凶悪な魔獣が跋扈する、文字通りの魔境だった。


「『死を呼ぶ森』……。

今のボクの装備じゃ、あそこに入って生きて帰るのは不可能だ……。」


解決策を見つけたのに、手が届かない。  

メルが再び絶望に沈みかけた、その時だった。

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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