【38-3】冒涜された聖域
セオドアの屋敷を後にした一行は、指定された『月の聖堂』へと向かった。
遺跡に近づくにつれ、森の空気が変わっていく。
鳥の声が消え、代わりに鼻をつく異臭が漂い始めた。
道中には、見るも無惨な魔物の死骸が転がっていた。
あるものは雑巾のように捻じ切られ、あるものは内側から破裂したように肉が弾け飛んでいる。
「ひどい……。明らかに、不自然な殺され方だ。まるで、壊すこと自体を楽しんだおもちゃのように……」
メルが口元を抑え、顔色を青くする。
生態系を無視した、悪意ある殺戮の痕跡。
「……嫌な匂いが、だんだん濃くなってきたな」
護が鼻をひくつかせ、表情を厳しくする。
カゲロウも無言のまま、静かに刀の柄に手をかけた。
その時だった。
森の奥から、ガラスを引っ掻いたような、甲高く悲痛な獣の鳴き声が響き渡った。
「こっちだ!」
三人が駆けつけた先に広がっていたのは、地獄のような光景だった。
崩れかけた白亜の遺跡の前。
闇市場のゴロツキと思われる男たちが、巨大なキメラをけしかけていた。
キメラは獅子と爬虫類を無理やり接合したような醜悪な姿で、
その爪が白銀に輝く美しい獣――月光石の獣の親子を蹂躙していた。
「グオオオオオッ!」
キメラの爪が閃き、子供を守ろうと立ちはだかった親のカーバンクルを引き裂く。
鮮血が白銀の毛並みを赤く染め、悲痛な鳴き声と共に、親たちは動かなくなった。
残されたのは、震える小さな子供の個体のみ。
そこに、研究員風の男が薄ら笑いを浮かべて近づき、禍々しい紫色の液体が入った注射器を、子供の首筋に突き立てた。
「ヒャハハ! こいつはまだ生きてるな! モルゴー様の新作薬(毒)の実験台にしてやるぜ!」
「キャンッ!!」
薬を注入された子供のカーバンクルは、全身を激しく痙攣させ、泡を吹いてその場でのたうち回り始めた。
「―――ッ!!」
理性が弾け飛ぶ音がした。
誰よりも早く動いたのは、メルだった。
「貴様! 何をしている!」
普段の冷静さはどこへやら、メルは研究員の男に一直線に駆け寄ると、全体重を乗せてその体を突き飛ばした。
「ぐわっ!? な、なんだ、このガキは!」
体勢を崩した研究員の男が、慌てて懐から魔道銃を抜き、メルに向ける。
引き金に指がかかった、その刹那。
「……遅い」
銀色の軌跡が空間を走った。
カゲロウの抜刀。
音もなく放たれた一閃によって、魔道銃は銃身ごと真っ二つに断ち切られ、男の手から滑り落ちた。
「なっ……!?」
「てめぇら……仲間を邪魔する奴は、俺がぶっ飛ばす!」
驚愕する男の視界を、巨大な影が覆う。
護の拳が唸りを上げて炸裂した。
殴り飛ばされた男は、木偶人形のように宙を舞い、大木に激突して動かなくなる。
「グオオオオオッ!」
主を倒され、制御を失ったキメラが狂乱し、三人に襲いかかってくる。
失敗作とはいえ、その巨体と腕力は脅威だ。
「カゲロウ! 足を頼む!」
「言われるまでもない!」
護は逃げも隠れもせず、正面から突っ込んだ。
全身に赤い「闘気」を纏い、キメラのタックルを真正面から受け止める。
ズズズッ、と地面が削れ、護の足がめり込む。
だが、彼は一歩も引かない。
「捕まえたぞ、トカゲ野郎!」
護がキメラの動きを完全に封じた瞬間、カゲロウが影のように死角へ滑り込んだ。
妖刀『夜叉』が冷たい輝きを放ち、キメラの右足の腱を正確無比に断ち切る。
ガクン、とキメラの体勢が崩れた。
その隙を、護が見逃すはずがない。
「これで……終わりだぁッ!」
戦斧『岩砕き』が轟音と共に振り下ろされる。
脳天への一撃。
キメラは断末魔を上げることもできず、その巨体を地に沈めた。
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