【35-3】賢母の慧眼と、夢
晩餐会後の、屋敷のテラス。 メルは、一人、夜風に当たっていた。
そこへ、アリアの母親、エレノアが、そっと近づいてきた。
「少しだけ、よろしいかしら? メルさん。護さんのことで、お話が……」
「……なんだい?」
「単刀直入にお聞きします。護さんは、異世界の方なのではなくて?」
メルの心臓が、大きく跳ねた。
メルは必死で動揺を隠すが、エレノアの穏やかで、しかし全てを見透かすような瞳の前では、無駄だった。
「……なぜ、それをボクに? 本人に聞けばいいだろう」
「うふふ。護さんに聞いたら、『おう、そうだけど、なんで分かったんだ?』と、
すぐに答えてくださるでしょう? それでは、面白くありませんもの」
その、悪戯っぽい笑みに、メルは、この女性が一筋縄ではいかないことを悟る。
メルが「知らない」と答えても、エレノアは、自らの推論を語り始めた。
彼女が、王家の血を僅かに引くこと。勇者の伝説に精通した、歴史マニアであること。
そして、護の持つ、この世界の理から外れた雰囲気と、初代勇者の逸話との共通点……。
「……それを知って、どうするつもりだ? 彼を、研究材料にでもするのかい?」
「いいえ。違いますわ。『支援』させていただきたいのです」
エレノアの瞳が、商人のように、鋭く光った。
「護さんは、いずれ必ず、歴史に名を残す英雄になります。わたくしには、分かります。
そして、その英雄の伝説の最初のページに、『ウィンズレイ家、これを支援す』と記されること。
それは、商人として、そして、歴史を愛する者として、最高の栄誉ですのよ」
それは、感謝の念と、そして、未来への、したたかで、壮大な「投資」の申し出だった。
「……護が、英雄になるかどうかは、さておき。その支援、謹んで受けさせてもらおう。
資金は、いくらあっても足りないからな」
二人の間には、奇妙な関係が生まれた。
その夜。
メルは、生まれて初めて眠る、天蓋付きの豪華なベッドの中で、今日の出来事を反芻していた。
(全く、とんでもない親子だ……。だが、これで、当面の資金の心配はなくなったな……)
彼女の脳裏に、ギルド本部で、総帥エイブラハムが言った言葉が蘇る。
『そして、初代勇者は、その旅の道中で出会った、一人の賢者の女性と結ばれた』
その時、総帥が、自分を一瞥した、あの意味ありげな視線。
(まさか……な……)
護の、太陽のような笑顔を思い出す。
(あの脳筋が、勇者……? ありえない。ありえないが……)
メルの顔が、熱を持ったように、赤く染まっていく。
(……もし、万が一、そうなのだとしたら、その隣にいる『賢者』は……)
彼女は、布団を頭まで被ると、高鳴る心臓を抑えつけながら、甘く、そして、少しだけ現実味を帯びてきた、淡い夢の中へと、落ちていった。
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