【34-2】覚醒する筋肉、継承される刃
護が再びギルド本部を訪れると、受付嬢のソフィア・クロニクルが、冷静な微笑みで彼を迎えた。
「磐座様、本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」
「おう、ソフィアちゃん! 実は、船の修理代で金に困っててよ。
すぐに大金が稼げる、景気のいい仕事はねえか!」
護がカウンターに身を乗り出して単刀直入に頼むと、ソフィアは少し呆れつつも、手元の資料に目を通した。
「……実は、一件だけございます。本来であれば、ゼノヴィア長官が気分転換に引き受けるはずだったのですが、長官は、その……先日提出された大量の始末書の修正に追われておりまして、誰も手がつけられない特殊な依頼が……」
依頼内容は『先日、港湾部で討伐された巨大モンスター『岩盤巨人』の死骸が硬すぎて、通常の解体業者では歯が立たず、港の倉庫を圧迫している。
その解体と素材の運搬を手伝ってほしい』というものだった。
「モンスター退治じゃなくて解体か!
まあ、俺の筋肉が役に立つなら、何でもいいか!
よし、その依頼、俺が受けるぜ!」
護は、破格の報酬額を見て快諾した。
現場の巨大倉庫には、小さな丘ほどもある岩の巨人の死骸が横たわっていた。
その異様な光景と、噂を聞きつけたリベルタリアの荒くれ者たちが野次馬として集まり、倉庫は異様な熱気に包まれていた。
護は戦斧『岩砕き』を構えると、まず、力任せに外殻へと叩きつけた。
凄まじい轟音と共に、外殻に大きなヒビが入る。
(いける! でも……これじゃ、時間がかかりすぎる……!)
護は、ゼノヴィアとの戦いを思い出す。
「(あの時の姉御の動き……ただのパワーじゃなかった……! 樽に詰まった火薬に、火をつける……!)」
彼は、ゼノヴィアに教わった「闘気」の感覚を、必死に呼び覚ます。
体の奥深くで眠る、膨大なエネルギーの塊。
それを、意思の力で練り上げる。
「うおおおっ!」
護の体から、不格好な赤いオーラが立ち上り、斧に纏わりついた。
彼は、その闘気を纏った戦斧を、再び外殻に叩きつける。
先ほどとは比較にならない轟音と共に、岩盤がまるでガラスのように砕け散った。
「(そうだ……! あの時は、こんな感じだった! この感覚を、忘れるな!)」
護は、ゼノヴィアの均一で洗練された闘気の流れを思い出し、何度も何度も斧を振るう。
そのたびに、護の闘気は荒々しさを残しつつも、より強く、より洗練されていく。
その人間離れした光景は、もはや「解体ショー」。
見物人からは「すげぇ!」「本当に壊しやがった!」「あれが噂のクラッシャーか!」と歓声が上がる。護は調子に乗って力こぶを作り、観客に応えた。
無事に解体を終え、ずっしりと重い報酬袋を手にした護は、「これで船の修理もバッチリだぜ!」と意気揚々と船へ戻るのだった。
一方、カゲロウが向かったのは、ポルト・リベルタの裏路地にある古びた武器屋だった。
ヴァルガスとの戦いで、愛刀『孤月』では、あの黒鉄の肉体に傷一つ付けることすらできなかった。
彼は、その屈辱を晴らすため、新たな力を求めていた。
店に入ると、盲目の店主がカゲロウの方を向いた。
「……お前さん、死の匂いがするな」
カゲロウの本質を見抜く店主。
カゲロウは店に飾られた一本の刀に目を奪われる。
血を吸うかのように不気味な気を放つ、妖刀『夜叉』。
「そいつは使い手を選ぶ。未熟な魂は、逆に喰われるだけだ。
それでも欲しければ、その刀を、抜いてみな。
それが、そいつを手にするための、唯一の試練だ」
カゲロウが『夜叉』の柄に手をかけた瞬間、彼の意識は暗い精神世界へと引き込まれた。
そこには、かつて彼が見殺しにしてしまった、仲間たちの幻影が立っていた。
「なぜ、見捨てた」
「お前だけが、生き残って……」
過去の罪悪感に、柄を握る手が震える。
しかし、その脳裏に新たな仲間たちの顔が浮かんだ。
『仲間だから、助けるのは当たり前だろ!』
護の屈託のない笑顔。
『君が死んだら、ボクたちの計画に支障が出る!』
メルの、不器用な憎まれ口。
「……俺はもう、過去のためには剣は振るわん」
カゲロウは、静かに呟いた。
「俺は――あいつらの道を拓くために、障りを斬る!」
カゲロウは幻影を振り払い、自らの意志で鞘から刀を抜き放つ。
現実世界に戻ると、店主は満足げに頷いていた。
「……合格だ。その剣は、お前のものだ。だが忘れるな、それは呪いの刃でもある」
カゲロウは新たな刀を手にし、そのずっしりとした重みを確かめながら、静かに店を去った。
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