【31-5】黒鉄の断罪
「少しは楽しめたぞ、小僧」
男は掴んだ護の手を放り捨てると、巨大な戦斧をゆらりと構えた。
その全身から、護の暴走すら霞むほどの、濃密で冷酷な殺気が溢れ出す。
「敬意を表して、最後に褒美だ」
男の兜の奥で、赤い瞳がギラリと光った。
「冥土の土産に、その身に刻んで逝け」
男が戦斧を振りかぶる。
その刃に、空間そのものを塗りつぶすような、ドス黒い魔力が収束していく。
「消えろ」
男は戦斧にドス黒い魔力を込め、横薙ぎに斬撃を飛ばした。
視認すら不可能な、黒い衝撃波。
護の本能が「死」を叫ぶが、避けることなど許されない。
「が……ッ!?」
斬撃は護の胴体を直撃し、暴走のオーラごと彼を紙屑のように弾き飛ばした。
護の巨体が空を裂き、遥か後方の岩礁地帯へと叩きつけられる。
ズドォォォォン!!
岩盤が砕け散り、土煙が高く舞い上がった。
護は血反吐をぶちまけ、瓦礫の中に崩れ落ちる。
胸の鎧は粉々に砕け、深い裂傷から鮮血が溢れ出していた。
骨が何本折れたか分からない。
指一本動かせないほどの、正真正銘の瀕死だ。
「カ……ハッ……」
護の口から、泡混じりの血が溢れる。
赤黒いオーラは霧散し、ただのボロボロの少年へと戻っていた。
勝てない。 暴走しても、命を懸けても、傷一つつけられなかった。
圧倒的な「死」が、ゆっくりと歩いてくる。
その時。 男の懐から、魔導具の通信音が鳴り響いた。
男は足を止め、舌打ちをして懐から通信機を取り出した。
「……チッ。ああ、回収は終わった。……何? 帰還命令だと? 今からトドメを刺すところだぞ」
通信機越しの言葉に、男は顔をしかめる。
しばしの沈黙の後、男は深いため息をつき、構えていた斧を背中に戻した。
「……命拾いしたな」
殺気が霧散する。
男は、虫の息の護を一瞥した。
「我が名は【魔王軍第一軍団長】、“黒鉄”のヴァルガス。 貴様のその力、気に入った。次に会う時までに、その『内なる獣』を飼いならしておくことだ。 でなければ、次こそ貴様を仲間もろとも喰らう」
黒いマントを翻し、ヴァルガスは闇へと消えていった。
後に残されたのは、半壊した港と、倒れ伏す仲間たち、そして絶望的な敗北感だけ。
「う、ぅ……」
遠くで、カゲロウたちが身じろぎするのが見えた。
無事、なようだ。
だが、護にはもう、彼らに声をかける力も残っていなかった。
(つえぇ……な……)
視界が暗転していく。
手に入れたはずの勝利と自信は、圧倒的な「世界」の広さを前に、あまりにも脆く崩れ去った。
深い闇の底へ落ちていく意識の中で、護はただ、己の無力さを噛み締めていた。
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。




