【31-3】黒鉄の絶望
「――見つけたぞ」
唐突に、世界から音が消えた。
波の音も、カモメの声も、風の音さえも。
ただ、地を這うような重低音だけが、護たちの鼓膜ではなく、脳髄を直接揺らした。
「え?」
護が振り返るよりも早く、異変は起きた。
背後に立っていたはずのメルとアリアが、糸の切れた人形のように崩れ落ちたのだ。
「メル!? アリアちゃん!?」
二人は白目を剥き、完全に意識を失っている。
そして、その横には――いつの間にか、巨大な「黒い影」が立っていた。
全身を黒鉄のフルプレートアーマーに包んだ巨漢。
背負った巨大な戦斧は、護の身長ほどもある。
男は、メルが持っていた研究資料を手際よく奪い取ると、兜の奥から赤い眼光を光らせた。
「貴様、何者だッ!」
カゲロウが動いた。
認識と同時に抜刀、神速の居合い。
達人級の剣士でさえ視認できないその一撃は、しかし――。
ガギィッ!
「ほう。なかなかの剣だ」
男は、振り向きもせず、ただ左腕を上げただけで、カゲロウの名刀を受け止めていた。
鎧に傷一つついていない。
「だが、まだ『遊び』の域を出んな」
「なッ……!?」
男の裏拳が、カゲロウを捉えた。
ただの裏拳ではない。空気が破裂するような衝撃音と共に、カゲロウの体が砲弾のように吹き飛び、船室の壁を突き破って甲板まで転がっていった。
「カゲロウ!!」
護の思考が真っ白になる。
一瞬だ。
たった一瞬で、仲間三人が無力化された。
目の前にいるのは、生物としての「格」が違う何か。
護の本能が、警鐘を鳴らしている。『逃げろ』と。 だが、護は吠えた。
「てめぇ……! よくも仲間を!!」
恐怖を怒りでねじ伏せ、護は戦斧『岩砕き』を全力で叩きつけた。
岩盤すら粉砕する渾身の一撃。 男はそれを、片手で持った黒い戦斧で、あくびが出るほど軽く受け止めた。
「ぬん」
「ぐ、おおおおっ!?」
圧倒的な質量の差。
押し返された護は、たたらを踏んで後退する。
「良い『剛』だ、人間。名は?」
「……磐座、護だ! てめぇこそ、何者だ!」
「ふん」
男は鼻を鳴らし、ゆっくりと巨体を護に向けた。
その威圧感だけで、護の肌が粟立つ。
「俺を倒したければ、30秒でやってみせろ。できなければ――」
男は巨大な戦斧の刃を、気絶しているメルの細い首筋に、そっと添えた。
「この人間の首が飛ぶ」
「ッ……!?」
「始めろ」
男の宣告と共に、無慈悲なカウントダウンが始まった。
「ふざけるなああああっ!」
護は吠え、大地を蹴った。
《岩盤タックル》で体勢を崩し、《パワースイング》で頭蓋を砕く。
いつもの必勝パターンだ。 だが、男は動かない。
護のタックルを膝の微調整だけでいなし、振るわれる戦斧を、まるで子供の玩具のように柄だけで弾き返す。
「遅い。単調だ。怒りに任せて振り回すだけの斧など、止まっているも同然」
「くそっ! くそっ! なんで当たらねえんだ!」
焦れば焦るほど、護の動きは大きくなり、隙だらけになる。
男の瞳が、冷徹に護の隙を見据えた。
「……残り、10秒」
冷酷な声が響く。
強い。強すぎる。
今まで戦ってきたどの敵とも違う。
これは、絶壁だ。
(俺は、戦士だ……守るんじゃなかったのかよ……!)
目の前で、動かないメルの首に刃が食い込む。
赤い血が、白い肌を伝う。
「残り、5、4、3……」
守れない。
誰も守れずに終わるのか。
「2……」
男が斧を振り上げた。
メルが死ぬ。
「やめろおおおおおおおおおおっ!!」
護の中で、何かが「切れた」。
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