【31-2】遺された狂気
巨大なガレオン船『ブラック・クラーケン号』は、墓場のように静まり返っていた。
あれほどいた手下の海賊たちも、主人の死と共に雲散霧消している。
「……誰もいねえな。だが、変な匂いがする」
護が鼻をひくつかせた。
船長室の前で、その匂いは濃くなった。錆びた鉄のような、独特の生臭さ――血の匂いだ。
「開けるぞ」
カゲロウが扉を蹴破る。
室内に充満していた淀んだ空気が、一気に噴き出した。
豪華な調度品が散乱する部屋の床には、胸を撃ち抜かれた男の死体が転がっていた。
バルボスの側近だろうか、口封じに殺されたようだ。
そして、執務机の上には、禍々しい紫色の液体が残った注射器と、書き殴られた航海日誌があった。
「……やっぱりだ」
メルが手袋をはめ、注射器を慎重に持ち上げる。
「この日誌の署名は、キャプテン・バルボス。…憶測になるが。あの化け物の正体は、ここの船長のバルボス本人だ。この注射器に残った成分…グラックに使われたものと同じ薬の亜種だ…!」
メルは続けて、血のついた航海日誌をめくった。
そこには、バルボスの筆跡で、力への渇望と、ある人物への恐怖が綴られていた。
『奴を利用できれば、俺は王になれる』
『だが、失敗すれば……』
日誌の最後は、インクの染みで汚れている。
「バルボスは、自らこの薬を打ったんだ。あの怪物の正体は、やはりバルボス自身だったということか」
メルが重い息を吐く。
薬物によって人間を怪物に変える外道な実験。
その背後にいる「黒幕」の影が、より色濃く浮かび上がる。
「おい、メル。こっちを見ろ」
カゲロウが、隠し引き出しから一冊の帳簿を見つけ出した。
闇市場の取引記録に混じり、ある特定の地名が記されている。
「取引先……『マギア共和国・第7研究学区・賢者の塔跡地』」
「マギア共和国……! 魔法大国か!」
メルの目が鋭く光った。
「間違いない、そこだ。ドクター・モルゴーのアジトは、そこにある!」
ついに尻尾を掴んだ。
この情報を元に乗り込めば、全てを終わらせることができる。 四人の間に、高揚感が走った。
「よし! そうと決まりゃ、すぐに出発だ! そのマギアなんとかって場所に殴り込みだ!」
護が拳を鳴らし、踵を返そうとした、その時だった。
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