【30-1】決勝戦、そして悪夢の開幕
『海賊コロシアム』決勝戦の日。
トルトゥーガ沖合に特設された岩礁会場は、前日までの熱狂を遥かに凌ぐ、異様な興奮に包まれていた。
空は抜けるように青く、海は鏡のように穏やかだ。
だが、その静けさが逆に、これから始まる死闘の激しさを予感させていた。
「相手は、準決勝で戦った『血濡れ鮫』より格下の海賊団だそうだ。油断はできねえが、勝てる!」
『最強!スーパーガーディアンズ号』の甲板で、護が拳を握りしめて仲間たちを鼓舞する。
その言葉に、ギデオンを始めとする船員たちが力強く頷いた。
かつて奴隷として絶望に曇っていた彼らの瞳には、今は「自由」への希望と、自分たちを救ってくれた若き船長への絶対的な信頼が宿っている。
「さあ、野郎ども! ついにこの時が来たぜ! 『海賊コロシアム』決勝戦! 栄光と、富と、美女を手に入れるのは、一体どいつだぁ!?」
実況のアナウンスが響き渡り、開戦を告げる巨大な花火が空に打ち上げられた。
乾いた破裂音が海面に響く。それが、悪夢の引き金だった。
「――なんだ?」
カゲロウが、鋭く海面を睨んだ。 違和感は一瞬。
次の瞬間、対戦相手の船の下から、海水が沸騰したかのように激しく泡立ち始めたのだ。
「うわあああっ!?」
悲鳴と共に、海中から槍のように突き出した巨大な『何か』が、相手の船を一撃で粉砕した。
木片が舞い、船員たちが宙に放り出される。それは、太く、ぬらぬらと濡れた紫色の触手だった。
一本ではない。二本、三本――無数の触手が海面を割り、砕けた船の残骸と人間を、まるでゴミのように海中へと引きずり込んでいく。
「な、なんだありゃあ……!?」
会場の歓声が、瞬時にして悲鳴へと変わる。
波が割れ、海中からその『本体』が姿を現した。
それは、巨大なイカのようでありながら、どこか人間的な歪さを残した異形の怪物。
かつて海賊バルボスだった成れの果て――魔獣バルボスである。
人間の悲鳴と獣の咆哮を混ぜ合わせたような、おぞましい叫び声が、トルトゥーガの海を震わせた。
「グオオオオオオオッ!!」
魔獣バルボスは、敵味方の区別なく、周囲の船を無差別に攻撃し始めた。
巨大な触手が一薙ぎされるたびに、観戦していた海賊船が紙細工のように砕け散る。
逃げ惑う人々、燃え上がる船体。コロシアムは一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「逃げろ! 早く船を出せ!」
「助けてくれ! こっちに来るな!」
「なんだ、ありゃあ!?」
護が目を見開いて叫ぶ。その問いに、メルが顔色を変えて答えた。
「あの禍々しい魔力……間違いない、グラックに使われたものと同じ薬だ……! あの化け物の正体は、薬を投与された人間か……!?」
分析する間にも、触手の一撃が近くの岩礁を粉砕し、瓦礫の雨を降らせる。
このままでは全滅だ。メルは即座に判断を下した。
「総員、退避! 陸へ向かえ! この船の機動力なら振り切れる!」
「おうよ! 取り舵いっぱいだ! 風を捕まえろ!」
ギデオンの怒声が飛び、船員たちが必死の形相でロープを引く。
船体が大きく傾き、急旋回を始めた。 だが、魔獣は逃げる獲物を許さなかった。
赤く燃える巨大な単眼が、護たちの船を捉える。
「まずい! 追いつかれるぞ! もっと帆を張れんか!」
「もう全開です! これ以上は……! 船が持ちません!」
操舵手のダグラスが悲鳴を上げる。
背後から迫る紫色の触手は、まるで生き物のように――いや、明確な殺意を持った生き物として、船尾へと迫っていた。
「チッ……!」
カゲロウが抜刀し、船べりに飛び乗る。
迫りくる触手に対し、神速の居合いを一閃させた。 鮮血が飛び散り、巨大な肉塊が海に落ちる。
だが、切り落とされた断面から、ボコボコと不気味な泡が立ち上り、瞬く間に新たな触手が再生してしまった。
「嘘だろ……!?」
「ダメだ! あの薬の効果で、驚異的な再生能力を得ている! 本体を叩かなければ意味がない!」
メルの叫びも虚しく、再生した無数の触手が船体を絡め取った。
メリメリと船体がきしむ嫌な音が響き、船は完全に動きを封じられてしまった。
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