【29-3】断罪の刃と、闇の胎動
追い詰められたジョーズは、脂汗を流しながら部下に叫んだ。
「持ってこい! アレだ!」
部下が慌てて運び込んできたのは、多銃身を持つガトリング型の魔道銃だった。
「死ねやぁ!」
ジョーズが引き金を引くと、銃口から魔力弾が猛烈な勢いで吐き出される。
護とカゲロウは咄嗟に太いマストの影に滑り込み、死の雨をやり過ごす。
木屑が激しく飛び散り、マストがみるみる削られていく。
「あんにゃろう、いきなり何しやがる!」
「護、ここは俺にやらせてくれ。あの銃は、懐に潜り込めば、ただの鉄屑だ」
「おう! 任せた!」
短いやり取りの後、カゲロウが影から飛び出した。
弾丸の嵐の中を、常人ならざるスピードで駆け抜ける。
頬を、肩を、魔力弾が掠めるが、彼の目は標的だけを見据えて揺らがない。
「らあああ!」
ジョーズが銃口を向けるよりも速く、カゲロウの間合いに入った。
銀閃
鋭い斬撃が横一文字に走る。
ガトリング銃が真っ二つに切断され、遅れてジョーズの胸からも鮮血が噴き出す。
海賊船長は驚愕の表情を張り付かせたまま、その場に崩れ落ちた。
船長を失った『血濡れ鮫海賊団』に戦う気力は残っていなかった。
次々と武器を捨て、降参の白旗が掲げられる。 決着を告げる花火が青空に咲くと、会場は一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。
それは、信じられない逆転劇を目撃した興奮と驚愕が入り混じった、阿鼻叫喚の如き熱狂だった。
その頃、『ブラック・クラーケン号』の船長室。
今大会の裏で糸を引くキャプテン・バルボスは、怒りに震えていた。
「これは一体どういうことだ!!!」
彼は報告に来た部下を、怒りのままに撃ち殺し、部屋の中を荒らし回っていた。
「なんなんだ、あの規格外の化け物どもは! このままでは、俺の地位も、金も、全てが……!」
決勝の相手は、格下の海賊団だ。準決勝を勝ち上がった護たちの優勝は、もはや揺るぎない。
多額の賭け金が動いているこの大会で、大穴である彼らが勝てば、胴元である自分は破滅する。
支払いは不可能だ。 バルボスが頭を抱え、絶望に沈んでいると、背後に気配もなく一人の男が現れた。
「誰だ!」
バルボスが驚いて振り返り、銃を向ける。
だが、男は表情一つ変えず、静かに告げた。
「助けに来た」
次の瞬間、男は陽炎のように揺らぎ、バルボスの背後へと瞬間移動した。
そして、その首筋に、禍々しい紫色の液体が満たされた注射器を突き立てる。
「ぐあっ……!?」
「モルゴーからの伝言だ。『もう、お前たちはいらない』、と。この注射は、これまでの感謝の気持ちだそうだ」
「俺に……何を……うあぁぁぁあああ!」
バルボスの悲鳴が部屋に響く。血管がどす黒く浮き上がり、肉体が内側から膨れ上がっていく。
「『魔神薬』だ真贋はわからんがな。
うまくいけば、魔神のようになれるそうだ。よかったな。……それでは、俺は帰る」
男は興味なさげに言い捨てると、闇に溶けるように消え失せた。
バルボスは体内を駆け巡る激しい熱と破壊衝動に耐えかね、船長室の窓を突き破り、海へと飛び込んでしまう。
そして、船が浮かぶ海面の下から、ブクブクとおびただしい数の気泡が湧き上がり始めた。
深海より、邪悪な紫色の魔力の光が、天に向かって立ち上る。 新たな悪夢の胎動を告げるように。
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