【29-2】規格外のカチコミ
「カゲロウ、メル! このままじゃジリ貧だ! こうなったら、こっちから乗り込むしかねえ!」
爆風と水しぶきの中で、護が叫んだ。
その視線は、船首に備え付けられた巨大な鉄製の『錨』に釘付けになっている。
「乗り込む!? どうやって!」
「あれを使うんだよ!」
護が指差した先にあるものを見て、メルとカゲロウは絶句した。
常人の発想ではない。だが、この男ならやりかねない。
一方、敵船『ブラッディ・シャーク号』の甲板では、キャプテン・ジョーズが高笑いを上げていた。
「ハッハッハ! 見たか、貴様ら! これが、運営様から頂いた、最新の魔道具の力よ!」
眼下で必死に砲撃を避けるオンボロ船を見下ろす気分は最高だった。
「キャプテン、さすがですぜ!」
「あの冒険者ども、あとは時間の問題だな!」
「おい、あの船には、綺麗な小娘と、錬金術師のガキも乗ってるらしいじゃねえか。
沈める前に、回収しましょうぜ、キャプテン!」
部下たちの下品な笑い声が甲板に響く。勝利を確信した弛緩した空気が流れていた。
「奴らも馬鹿だよなぁ、運営に損なんかさせっから、こうなるんだよ!
まあ、おかげで、うちはこんな良い魔道具を貰えたんだがなぁ!」
その時、再び煙幕弾が撃ち込まれ、視界が奪われた。
「馬鹿の一つ覚えが! おい! 魔道具を起動しろ!」
俺が部下に指示した、その瞬間だった。 風の唸り声とは違う、もっと重く、凶悪な何かが空を裂く音が聞こえた。
ガッシャアアアン!!
凄まじい轟音と共に、船体が大きく傾ぐ。
甲板の中央に、鎖のついた巨大な錨が深々と突き刺さっていたのだ。
木片が飛び散り、部下たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「な、なんだ!?」
そして、その錨の鎖を伝って、あのデカブツと、黒い剣士が、まるで砲弾のように敵船へ飛び込んできた。
「お邪魔しまーーす!!」
着地の衝撃で甲板が軋み、その余波だけで近くにいた海賊たちが吹き飛ぶ。
時間を少し遡る。カチコミの直前、カゲロウは信じられないという顔で護に詰め寄っていた。
「お前、本気で言っているのか?」
「本気も本気、超本気だぜ! このままだと、やられるだけだ!
俺が、あの錨を、相手の船にぶち込む!
そんで、俺とカゲロウで乗り込んで、船長を叩く!」
「無謀だ!」
メルが叫ぶ。
「だが、他に手がないのも事実……。わかった、気をつけろよ脳筋!」
覚悟を決めた護は、船員たちに作戦を伝え、メルの煙幕に乗じて一気に相手の船へと肉薄させた。
護は全身の筋肉を膨張させ、血管が浮き上がるほどの剛力で巨大な錨を持ち上げる。
「うおおおおおっ!」
ハンマー投げの要領で回転し、遠心力を極限まで高める。
鋼鉄の塊が、風を切る音を超えて唸りを上げる。
護の手から放たれた錨は、物理法則を無視した直線軌道を描き、一気に相手の船へと突き刺さった。
そして、ピンと張った鎖を足場に、カゲロウと共に敵船へと乗り込んだのである。
「て、てめえら! 俺の船に傷をつけやがって! 皆殺しにしてやる!」
怒り狂うジョーズの号令で、海賊たちが一斉に二人へと襲いかかる。 護は愛用の戦斧『岩砕き』を振るい、群がる敵を藁人形のように薙ぎ払う。
「ふんっ!」
一振りごとに数人の海賊が空を舞う。
その隙を縫うように、カゲロウが疾走する。彼の刃は音もなく閃き、的確に敵の武器や腱を断ち切り、戦闘能力を奪っていく。
剛と柔。阿吽の呼吸による連携で、甲板は瞬く間に制圧されていった。
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