【27-2】船の墓場と、偽りの交渉
港の外れ。
潮と油の匂いが混じるその一帯は、
使われなくなった船や部品が無造作に積み上げられた、
まさしく“船の墓場”と呼ぶにふさわしい場所だった。
折れたマスト。
錆びついた錨。
穴の開いた船腹。
それらの間を縫うように、
一行は目的の中古船商へと足を踏み入れる。
「……ここか」
カゲロウが低く呟く。
目の前にあるのは、
今にも崩れ落ちそうな掘っ立て小屋と、
その前に並べられた、数隻の老朽船。
「いかにも、って感じだな……」
護が肩をすくめる。
その時。
「いらっしゃいませぇ……おや?
今日は、ずいぶんと可愛らしいお客さんだ」
腹の出た男が、小屋の中から現れた。
金歯をきらりと光らせ、
ねっとりとした視線をアリアに向ける。
「……中古船をお探しかい?」
「はい」
アリアは一歩前に出て、
怯えを見せることなく、まっすぐに男を見据えた。
「キャラベル級の船を探しております。
できれば、すぐに出航できる状態のものを」
その言葉に、
男はわざとらしく目を丸くしてみせる。
「ほう、キャラベルだと?
こりゃまた、景気のいい話だ」
男は背後に並ぶ船を指差した。
「見ての通り、うちは品揃えが豊富でねぇ。
だが――その分、値も張る。
お嬢ちゃんたちに、払えるかな?」
「相場は把握しております」
アリアは即座に言い返す。
「この状態の船であれば、
提示される価格は、相場の六割が妥当です」
男の笑みが、わずかに引きつった。
「へぇ……ずいぶん詳しいじゃねぇか」
「実家が貿易をしておりましたので」
「そうかい、そうかい」
男はわざとらしく頷きながら、
奥にあった一隻の船を指した。
「なら、これなんてどうだ?
去年まで現役だったキャラベル船だ。
ちょいと傷んじゃいるが、問題なく航海できる」
そう言って提示された価格は、
明らかに相場を大きく上回っていた。
「……この船、竜骨に歪みがあります」
横から、メルが静かに口を挟む。
「それに、帆布も劣化が進んでいる。
このまま外洋に出れば、
三日と保たないでしょう」
「なっ……!?」
男は一瞬、言葉を詰まらせる。
「お、おいおい!
素人が知った風な口を――」
「素人ではありません」
メルは淡々と続けた。
「船舶工学の基礎くらいは、理解しています。
……それとも、この欠陥を承知の上で、
売りつけるおつもりでしたか?」
空気が、一気に張り詰める。
男は舌打ちし、
今度は態度を変えてきた。
「……なるほど。
どうやら、甘く見ていたようだ」
「ですが――」
男は、急に声を低くした。
「この街で商売をするには、
それ相応の“覚悟”が必要でねぇ」
合図もなく、
周囲の物陰から、数人の屈強な用心棒が姿を現す。
「値段が気に入らないなら、
力ずくで納得してもらうしかねぇな?」
その瞬間。
護とカゲロウが、
同時に一歩、前へ出た。
「……」
言葉はない。
だが、その存在感だけで、
場の空気が一変する。
「……」
用心棒たちは、思わず足を止めた。
護は、ゆっくりと拳を鳴らす。
「なあ、おっさん」
穏やかな声。
だが、笑っていない。
「商談の邪魔は、
好きじゃねえんだ」
「…………」
男の喉が、ごくりと鳴る。
アリアは、その隙を逃さなかった。
「交渉は、まだ終わっておりません」
静かだが、凛とした声。
「適正価格での再提示を、
お願いいたします」
沈黙。
やがて、男は大きく肩を落とした。
「……チッ。
分かったよ。負けだ」
こうして、
交渉は、決定的な局面を迎える。
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。




