おねえちゃん、あそぼ
目を凝らすと、和室の天井に手型のシミが浮かぶのが、苦手だった。なんだかとても恐ろしいもののようで、幼い私は息を飲んだ。
怖がる私に、祖母はよく言ったものだ。「天井を張るときに触った大工さんの手の脂が、何年かして浮かんでくるのよ」と──。
今、私は金縛りに遭っている。眠りのはざまにうっすらと意識が浮上する。金縛りは、身体が眠っていて、意識が目覚めているときに起こるものだという。
ではこれも、夢なのだろうか。
ずず……と、何かを引きずる音が、私のすぐ横から聞こえてくるのは。
私の胸の上に、ずしりと何かが乗った。薄目を開けて、金縛りの正体を確かめる。
大きな蛇だった。大人の腕ほどもある太さ。ずいぶん長い身体でとぐろを巻いて、私の胸の上に乗っている。色は黄色だ。
コーンスネークという蛇がいるのを知っているけれど、それよりも少し濃い色合いをしている。
家の中にいるはずのない蛇に、私は慌てた。しかし金縛りに遭っていて、指一本でさえ動かない。
大きな蛇はかま首を上げると、ピンク色の舌をちろちろと出した。先が二つに割れている。
「おねえちゃん、あそぼ」
蛇から幼い女の子の声がして、私は度肝を抜かれた。金縛りに遭っていて、声も出せない。
「……ねぇ、おねえちゃん」
私は必死に念じる。金縛りにするような人とは遊びません、と。
少しの間、蛇は舌先をちろちろと出していたが、あきらめたようにかま首をしょんぼりとさせ、来たときと同じように帰っていく。
目をぎゅっと閉じた私の耳に、ずず……ずず……と、鱗が畳の上をはう音が届いた。




