第2章 暗殺者ギルドとの遭遇
夜の街は、昼とはまるで別の顔をしていた。
細い路地の奥に伸びる影は、牙を剥く獣のように不気味に口を開けている。
俺たちは冒険者ギルドからの依頼で、商人一行の護衛をしていた。
目的地までの道のりは短い。だが――。
「……気配が多すぎるな」
俺は足を止め、背後の闇を睨む。
「カイ? どうした?」
リーナが不安そうに俺の横顔を覗き込む。
「……隠れてる。五人以上。いや、もっとだ」
ガルドが斧を肩に構え、ニヤリと笑った。
「やっとか。退屈してたんだ」
次の瞬間――。
ヒュッ、と矢が飛んできた。
だが俺は即座に呟く。
――反転。
放たれた矢は空中で軌跡を巻き戻し、射手のもとへ返っていく。
悲鳴が一つ、暗闇に吸い込まれた。
「チッ……これが“反転”か」
闇から一人、黒装束の男が姿を現した。
顔を覆う仮面の下で、冷たい眼光が光る。
「……暗殺者ギルドか」
「ご明察。お前のスキルが高額で取引されると聞いてな……」
男の手の合図で、四方から十人近い影が飛び出してきた。
投げナイフ、短剣、毒針。
一斉に襲いかかってくる。
「来るぞ!」
俺は深呼吸し、動きを見極める。
そして――。
――反転。
飛び交うナイフが軌跡を逆戻りし、放った本人の腕をかすめる。
毒針は逆流し、後方の暗殺者の肩に突き刺さった。
「な……!?」
仮面の男が驚愕する。
だが、敵は怯まない。むしろ動きが速く、鋭くなる。
四方八方から繰り出される連携。
いくら“反転”で返しても、数が多すぎる。
「カイっ、避けて!」
リーナの声が飛ぶ。
瞬間――俺は無意識に、二度続けて呟いた。
――反転。反転。
一度目で暗殺者の刃を逆に流し、二度目で軌道を即座に元に戻す。
まるで時が乱れたように、敵の攻撃が宙で絡まり、すれ違いざまに互いを切り裂いた。
「ぐっ……!」
「な、なにをした!?」
俺自身も驚いた。
今のは――連鎖。
反転を繋げて発動したのだ。
「……やれる」
全身に電流が走るような感覚。
スピードと鋭さが増す。
反転を連鎖させるたび、俺の動きは研ぎ澄まされていく。
「こいつ……人間じゃねぇ!」
暗殺者たちが次々と叫ぶ。
俺は刃をかわし、地を蹴り、影の中を疾走した。
反転を重ねるたびに、敵の攻撃は自らを裏切り、仲間を斬り裂いていく。
「……これが“反転”だ」
仮面の男は後退しながら、なおも冷静に俺を見据えていた。
「……面白い。だが、必ず狩る。我らの背後には“スキル狩り”がいる。覚悟しておけ」
そう言い残し、煙玉を投げつけて姿を消した。
残されたのは、倒れ伏す暗殺者たちと……胸の奥に残る、不気味な言葉。
(スキル狩り……? 俺の力を、狙っている……?)
俺は深く息を吐き、仲間を見やった。
そして、決意を固めるように拳を握った。
(なら――絶対に負けられない。反転は、俺が使いこなす)
夜の闇がさらに濃くなっていく。
新たな戦いの幕が、音もなく上がっていた。