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第2巻 第1章「新たな力の兆し」

街の広場は、夕暮れの鐘が鳴り響いていた。

ドラゴンとの死闘から数週間、俺たちはようやく平穏を取り戻し、依頼をこなしながら日々を過ごしている。


「カイ、今日の調子はどうだ?」

斧戦士のガルドが、広場の端で木製の人形を肩に担ぎながら声をかけてくる。


「ああ。……少し試したいことがあってな」

俺は深く息を吐き、目の前の訓練用の木人に向き直った。


――反転。


小さく呟く。

その瞬間、俺が放った短剣は軌道を逆に返され、まるで時が巻き戻ったように手元へと舞い戻ってきた。

以前なら、そこで硬直して動けなくなっていたはずだ。

だが――。


「……っ、動ける……!」


わずかに身体が重くなる感覚はある。だが完全に止まることはなく、次の一歩を踏み出すことができた。


「おお!? お前、今動いたよな!?」

ガルドが目を剥く。


「ふふ、やっぱり。前よりも“戻り”が早い」

リーナが祈りの杖を抱きしめながら、嬉しそうに目を細める。


どうやら俺の“反転”は、以前よりスムーズになっている。

しかも、ほんのわずかだが――周囲の風の流れや人形の影すら、逆流するように揺らいで見えた。


(……今のは、俺の錯覚か? いや、違う。間違いなく影響が広がっている)


「試しにもう一度、いけるか?」

ガルドが木人を地面に叩きつけるように置いた。


「ああ、見てろ」


木人が倒れる瞬間――俺はまた呟く。


――反転。


ゴウン、と重力そのものが逆さになったかのように、木人は倒れかけの姿勢から一瞬で元の直立に戻った。

そして俺の身体も、重さを感じながらも……踏ん張れた。


「……! やっぱりだ。制御できるようになってる」


「すげぇ……! これ、攻撃だけじゃなく、物理の流れそのものを戻してるんじゃねぇか!?」

ガルドが大声を上げる。


「でも……無理に続ければ、身体への負担も大きいはずです。あのドラゴンの時のように」

リーナが心配そうに眉を寄せた。


「分かってる。けど……」

俺は拳を握る。


(反転は、まだ成長している。……いや、俺が成長させているんだ)


空を見上げると、夕日が街の屋根を赤く染めていた。

あの日、仲間を救うために無理矢理連発したあの瞬間。

あれがきっかけで、“反転”の新しい段階に足を踏み入れたのだと、俺は確信していた。


「この力……もっと磨いてやる」


誰に聞かせるでもなく呟いた俺の声は、鐘の音に溶けて、静かな街に消えていった。


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