最終章 決戦の果てに
ドラゴンの咆哮が、迷宮全体を揺らした。
その巨体は未だ健在。だが、俺の“反転”で自らの炎を浴びた傷が、確かにその鱗を焦がしていた。
「ここが勝負だ……!」
ジルが剣を構え直す。
リーナは俺に手をかざし、治癒の光を注ぎ込む。
「カイさん、立ってください……! まだ終わってません!」
俺は重たい体を持ち上げ、前へ出た。
全身が悲鳴を上げる。
それでも、この仲間と共にいる限り、倒れるわけにはいかない。
ドラゴンが翼を広げ、空気を震わせながら炎を吐こうとする。
俺は一歩踏み込み、低く呟いた。
「反転」
その瞬間、炎は逆流し、ドラゴンの喉を焼いた。
苦悶の叫びとともに、巨体がのけぞる。
「今だッ!」
ジルが吠え、跳躍する。
渾身の剣が、焦げた鱗の隙間に突き立った。
ドラゴンが暴れる。
尾が振り払われ、ジルの体が宙に投げ出される。
「ジルさんッ!」
リーナの悲鳴。
――間に合わない。
俺の体は限界を超えている。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
「反転……ッ!!」
ドラゴンの尾撃が逆流し、自らの翼を打ち砕く。
よろめいた瞬間、俺はさらにもう一度、声を絞り出した。
「反転ッッ!!」
世界がひっくり返る感覚。
ドラゴンの巨体が、自らの重みを支えきれず倒れ込む。
その隙を、ジルが逃さなかった。
「これで……終わりだァァッ!」
全力の剣が、ドラゴンの首を断ち切った。
地響きとともに、巨体が崩れ落ちる。
迷宮の奥に静寂が訪れた。
――勝った。
俺はその場に膝をつき、荒い息を吐きながら呟いた。
「……やったな」
リーナが駆け寄り、涙を浮かべながら抱きついてきた。
「カイさん……無茶しすぎです! でも、本当に……ありがとうございます!」
ジルも笑いながら肩を叩いてくる。
「お前の“反転”がなきゃ、絶対勝てなかった。
ハズレスキルだなんて、誰が言ったんだ?」
俺は苦笑する。
「……俺もそう思う。これは、俺たちのためのスキルだ」
――ただの一撃逆流じゃない。
仲間と共に戦うことで、戦場を支配する力に変わる。
まだ体の奥に、何か眠っている感覚がある。
進化の予兆。
きっと、これから先もこの力は成長していくだろう。
迷宮の出口に向かって歩き出しながら、俺は心の中で呟いた。
「反転――この力で、仲間を必ず守り抜く」
そして俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだった。