第4章 迷宮の罠突破
初めて挑む本格的な迷宮。
俺とジル、そして僧侶見習いのリーナは、薄暗い石造りの回廊を進んでいた。
松明の灯りに照らされる壁には、苔がびっしり張りついている。
空気は冷たく湿り、靴音がやけに響く。
「……嫌な感じですね」
リーナが小声でつぶやいた。
「油断するな。迷宮は敵だけじゃない。罠が一番怖い」
俺は剣を構えつつ、慎重に足を進める。
――その時。
「カイ! 止まって!」
ジルの声に反応して足を止めた瞬間、前方の床が崩れ落ちた。
轟音と共に、石が砕け散り、底の見えない奈落が口を開ける。
もし踏み込んでいたら……。
「危なかった……」
リーナが胸に手を当て、安堵の息をついた。
しかし、問題はそこからだった。
「……あれ、道が完全に断ち切られたぞ」
ジルが顎をしゃくる。
見渡せば、前方は大きな裂け目。幅は十メートル以上。
飛び越えるなんて不可能だ。
「どうする? 引き返すか?」
リーナが不安そうに俺を見る。
俺はしばし考え――そして、心にひとつの閃きが浮かんだ。
「……待て。これは試す価値がある」
俺は深く息を吸い込み、目を閉じた。
仲間の視線を背に受けながら、静かに呟く。
「反転」
――瞬間。
裂け目が、まるで映像を巻き戻したかのように石を組み直し、床が元通りになる。
ゴゴゴ……と鈍い音を立てながら、崩れた岩が逆流し、ピタリと道を繋げていく。
ジルが目を見開いた。
「道そのものを……戻した!?」
リーナは両手を口に当て、信じられないといった表情を浮かべている。
俺はというと、反動で全身が硬直し、その場に膝をついた。
「くっ……やっぱり動けねぇ……!」
ジルがすぐに肩を貸してくれる。
「でも、やったな。これで先に進める」
リーナが迷いなく言葉を重ねる。
「この力……戦闘だけじゃなく、冒険そのものを切り拓く力です!」
仲間の声が、心の奥に灯をともす。
(そうだ……ただの“戦うための力”じゃない。この世界そのものを、俺たちに有利に“反転”できるんだ)
そう確信した瞬間、迷宮の奥から轟音が響いた。
「……来るぞ!」
ジルが剣を抜く。
闇の中から姿を現したのは、巨大な石のゴーレムだった。
迷宮の守護者。罠を突破した冒険者を試す存在だ。
俺は汗をぬぐい、再び立ち上がる。
「よし……ここからが本番だ」
反転の力を携えて、俺たちは新たな死闘へと踏み出した。