第2章 盗賊団戦と代償
森の奥の街道。
護衛依頼で同行していた商隊が、突如として盗賊団に襲撃された。
十人を超える男たちが松明を掲げ、刃を光らせながら取り囲んでくる。
「ひ、ひぃ……!」
商人たちは馬車にしがみつき、護衛役の冒険者たちが前に立つ。
その中に、まだ駆け出しの俺――カイもいた。
「チッ、やっぱり来やがったか」
先輩の剣士ジルが剣を抜き、前に出る。
「カイ、お前は下がってろ! “ハズレスキル”じゃ足手まといだ!」
(……ハズレ、ね)
俺は苦笑いしながらも腰の剣を握る。
確かに俺のスキル《反転》は、まだ誰もその本質を理解していない。
だが、俺自身は確信していた。これは使える、と。
盗賊たちが一斉に突っ込んでくる。
叫び声と金属音、血の匂い。
その渦の中で、俺は小さくつぶやいた。
「……反転」
瞬間、目の前の盗賊の姿が“逆”になった。
振り下ろしてきた剣の勢いが反転し、彼自身の背後へと押し返される。
「な、何だ!?」
盗賊は自分の剣に弾かれるようにして吹き飛び、仲間を巻き込んで転倒した。
――使える。
だが、次の瞬間。
「ぐっ……!?」
全身が鉛のように重くなり、膝が地面に沈む。
反転を発動した途端、俺の身体は硬直してしまう。
まるで世界と俺の動きが“逆相”を取るかのように。
「カイ!」
仲間の僧侶リナが慌てて駆け寄り、盾を構える。
俺の無防備な身体を狙って、別の盗賊が襲いかかってきた。
だが、その刃はジルの剣によって弾かれる。
「ったく、無茶しやがって! 守るのはこっちの役目だろうが!」
「す、すまん……でも、今の見ただろ……?」
「……ああ、見た。妙な技だな。敵の攻撃をひっくり返すなんて……」
ジルは舌打ちしつつも、俺を庇いながら戦い続ける。
俺は息を整え、硬直が解けるのを待つしかなかった。
(そうか……これが代償か。反転を発動すれば、しばらく俺は動けない……)
その後も数度、俺は盗賊たちの攻撃を“反転”させた。
矢が放たれれば、射手自身に跳ね返り、
大斧が振り下ろされれば、逆に地面に叩きつけられて足を折った。
だが、そのたびに俺は立ち尽くすしかなく、仲間たちが盾となって守ってくれた。
やがて盗賊団は総崩れとなり、森へと逃げ去っていった。
戦いが終わった後、ジルが深いため息をつきながら俺を見た。
「……カイ、お前のスキル。たしかに“ハズレ”じゃねぇな。だが、代償がデカすぎる」
「……ああ。仲間がいなきゃ、俺は一瞬で死んでた」
リナがにっこり笑って言う。
「だからこそ、仲間が必要なんですよ。カイさんは“反転”で戦況を変える。私たちがその間を守る。きっと、それが一番強い形になるはずです」
俺は無意識に拳を握りしめた。
(そうだ……俺一人じゃ無理でも、仲間がいれば――このスキルは必ず輝く)
夜空の下、焚き火の炎がゆらめく。
俺はその揺らめきを見つめながら、改めて心に誓った。
――次はもっと、うまくやってみせる。