第1章 スキル判定
冒険者ギルドの広間は、今日も人の熱気と喧噪に包まれていた。
新人冒険者の登録日。部屋の一角では、スキル鑑定を受けるための列ができている。
「次、カイ=レヴァント」
呼ばれた名前に、俺は前へ出る。
机に座る鑑定官が、水晶球を指さした。
「手を置け。……力を流せ」
言われた通り手をかざすと、水晶球が淡く光り、空中に文字が浮かび上がる。
――スキル:反転
「……は?」
思わず声が出た。鑑定官も眉をひそめる。
「反転? こんなスキル見た事が無い
「攻撃力なし、防御力なし。……どう使えるんだ?
後ろで順番を待っていた冒険者たちが疑問だらけになった
『どう使えるんだ?
「ハズレスキルだな。初日で帰るやつの典型だ」
ざわめきが広がる。
だが俺自身はこれは使えると思った。
――
翌日。
俺は新人パーティの依頼に混ざることになった。ギルドが無理やり押し込んでくれた形だ。
内容は「近郊の森に出たゴブリンの群れを討伐せよ」。
「……謎スキルか…足手まといにはなるなよ」
リーダー格の剣士にそう言われ、俺はただ頷くしかなかった。
森の奥からゴブリンの叫び声が響く。
姿を現した小鬼たちは、武器を振りかざして突進してきた。
「くるぞ!」
仲間が構え、俺も慌てて剣を握る。
だが一匹が真っ直ぐ俺へ飛びかかってきた。
心臓が跳ねる。
逃げるべきか――それとも。
(いや……やってみるしかない)
小さく息を吸い込み、俺は呟いた。
「……反転」
刹那、ゴブリンの動きがぎくりと止まり、次の瞬間――元の位置へと逆流するように吹き戻された。
そのまま地面に顔面を打ちつけ、もんどり打って倒れる。
「な、何だ!?」
「今、突っ込んでたのに……戻ったぞ!?」
仲間が驚く中、剣士が飛び込み、倒れたゴブリンを一息に斬り伏せた。
俺はというと――体が石のように固まって動かない。
呼吸すら浅くなり、膝が勝手に震える。
「おい!大丈夫か!」
仲間が肩を揺さぶった瞬間、ふっと体の拘束が解け、俺は膝をついた。
「……はぁ、はぁっ……!」
必死に息を整えながら、気づく。
“反転”は確かに俺が引き起こした。
だが同時に、発動の代償で数秒間は完全に無防備になる。
……使い方を間違えれば、すぐ死ぬ。
それでも胸の奥に、不思議な熱が灯った。
「……悪くない」
仲間がいれば、この力はきっと活きる。
ただのハズレスキルなんかじゃない。
俺の戦いは、ここから始まる。