4
作戦会議をすると言ったはいいものの、私とアルジェント様の口数は極端に減った。
……そう。実はお互い、恋愛に関しては未経験のド素人。いいアイデアなど、浮かぶはずもなかった。
「一度、整理して考えてみましょう」
「というと?」
「まず、現在メーラさんにアプローチしている人達について、報告しておきます。アルジェント様はご存じないでしょう?」
「……恥ずかしながら、全く知らなかった。教えて欲しい……」
素直に教えを乞うアルジェント様はちょっと可愛らしい。私はコホン、と咳払いするとノートに二人の名を書いた。
「一人目は、公爵令息のルーポ・グリージョ様。彼は割とがっつりアプローチかけてますね。さりげなくお花やお菓子を贈ってるところを見たことあります」
「グリージョ公爵家か。あそこは基本的に潤っているからな……。羨ましい……」
王家は財政が割と苦しいですもんね、とは言えないので沈黙する。魔物の討伐費やら、被害の復興費がかさんでいるのに税収が増えないから、今の王家はなかなかに質素な生活をされているのよね。それはさておき。
ルーポ様は燃えるような真っ赤な長髪がトレードマークの美男子で、可愛い女の子にはすぐに声をかけるというナンパな一面のあるお方だ。と言っても別に女の子をとっかえひっかえしているわけではなく、ただキャーキャー囲まれているのがお好きなよう。頭脳明晰で、友人の勉強を見たりしてあげているので、男性陣からの人望もあるみたい。
「二人目は、辺境伯令息のオルソ・マローネ様ですね。彼はルーポ様ほどあからさまなアプローチはしていませんが、しょっちゅう熱い瞳でメーラさんを見つめているので、周囲の人たちには気持ちがバレバレです」
「マローネ家の……。あ! あの熊か!」
「……熊は失礼ですよ。ちょっと日に焼けて大柄なだけでしょう。まあ、周囲からは“穏やかな熊さん”なんてあだ名を付けられてるようですが」
「何、その“気は優しくて力持ち”みたいな表現」
オルソ様は日に焼けているうえ、茶色の髪の毛量が多いので見た目が実に熊っぽい。だけど、とても優しくて誰にでも親切なので、“穏やかな熊さん”なんて呼ばれている。
魔力量が多く武芸に秀でているので、将来は近衛兵団に入団する予定と聞いたことがある。見た目に反して甘い物がお好きらしく、こっそりスイーツを食べて微笑んでる姿が可愛いと一定の女性ファンがついているらしい。
「……他にもいますけど、強力なライバルはこの二人ですね。彼らを倒すためには、しっかりと作戦を練らないと!」
「いや、倒すって、別に彼らと戦うわけじゃ……」
「はぁ!? 何言ってんですか! 彼らに勝たなきゃメーラさんと結婚できないじゃないですか!」
「けっ! 結婚!? ……メーラ嬢と私が!?」
真っ青になってオタオタするアルジェント様を見て、覚悟を決めた。
これは、私がしっかりしなくちゃダメだと。