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鏡の前で何度もポーズを取る。
白い花の刺繍がされたアクアブルーのワンピース。ゆるく編み込まれた髪には、繊細な花が彫られたシルバーの髪飾りが揺れている。薄く施した化粧に、かすかに香るコロン。爪はピッカピカに磨かれている。
……正直、気合を入れ過ぎてちょっと恥ずかしくなってきた。
アルジェント様に頑張り過ぎと引かれたらどうしよう……。
私がソワソワしていると、アルジェント様が迎えに来た。
「…………」
え、ちょっと、何か言って下さいよ! 普段の私とはだいぶ印象違うはずですけど!
いつもの社交辞令はどうしたんですか! 着飾った時には絶対褒めてくれてたじゃないですか!
「リ、リモーネ!」
「は、はい」
「その……と、とても、綺麗だ。君は、いつも可愛らしいけど……きょ、今日は、いつもより輝いて見えるよ」
「あ、ありがとう、ございます」
なんか恥ずかしい! いつもはもっとスマートに、美しいよリモーネとか言ってサラっと褒めてたのに。そんな顔を赤くしてモジモジ言われると照れるんですけど! どうしたの!? アルジェント様!
「さ、さあ行こうか!」
エスコートもぎこちない。……今日のデート大丈夫かなぁ。ちょっと不安になってきた。
アルジェント様に連れられてやってきた洞窟迷路。まだオープンしたばかりのせいか、人は少ない。あ、カップル大歓迎って看板が出てる。でもその下に、お子様だけの入場は禁止って書いてあるなぁ。岩場だからかな?
受付に行くと、魔法師団の男性が数名立っていた。
「カップル二名様、ようこそ~! 存分に迷路を楽しんでくださいね~!」
「「「行ってらっしゃいませぇ~~!!」」」
にこやかに見送りをされた。すごいな、遊園地のアトラクションみたいになってる。それにしても、受付の人数多くない?
そう思っていた私だったが、納得した。これは人数が必要だわ。
だって、全然洞窟から出られない!!
「あ、アルジェント様! ここ、さっき通った道ですよね!?」
「いや待て! リモーネ。岩の形が微妙に違う! これは罠だ!」
迷路に入って一時間。あまりにも複雑過ぎる迷路に、私たちは悪戦苦闘していた。
ってゆーか、これもう魔物がいないだけでダンジョンじゃないの!?
手をかけすぎでしょ! 魔法師団って暇なの!? 絶対リタイアする人続出でしょ!
やっと洞窟から出られた時には、二時間が経過していた。これもう立派な訓練だよ!
へとへとになった私たちは、洞窟前の喫茶店で休むことにした。水分補給したかったし、お化粧直しが必要だったから。海辺の洞窟と聞いていたから、歩きやすいブーツにしておいて良かった。ハイヒールとかサンダルだったら足が死んでたわ。
「すまない……リモーネ。まさかこれほど本格的な迷路だとは思わず……」
「いや、想像できないですよ。だって入口にカップル大歓迎って書いてあったし」
「……もしかしたら、あの迷路を作ったのは恋人のいない連中なのかもしれないな」
「なんて手の込んだ嫌がらせ」
魔力も体力も無いカップルが何も知らずに入ったら、間違いなく険悪になりそうなダンジョンだよ。モテない人間の僻みって怖いな、と私は受付にいた魔法師団員の弾けるような笑顔を思い返した。
「とりあえず、迷路を攻略できたことを乾杯しましょうか」
「そうだな、乾杯!」
私たちはレモンスカッシュとジンジャーエールで乾杯した。まだ未成年なんで。
それにしても、全くロマンティックな雰囲気にならないんだけど、私は無事に告白できるんだろうか?




