33 オルカサイド
俺とリコルドは覚悟を決めた。ルーポ様の話を聞いて、もうもたもたしている場合ではないと悟ったからだ。俺たち二人は、アルを焚きつけることにした。
「二人とも、いきなり呼び出すなんて何かあったのか?」
話があるとアルを専用サロンに呼び出した俺たちは、重々しく話を切り出した。
「……アル。俺は夏季休暇中に、リモーネに正式に告白しようと思ってる」
「え……」
アルの顔が凍り付いたように固まった。そこへ更に追い打ちをかける。
「彼女が了承してくれたら、テルペン家に挨拶に行くつもりだ。そして、正式な婚約者として手続きをする。一応、あんたに報告しておこうと思ってな。……リモーネの、元婚約者様?」
「っ!!」
わざと挑発するような言葉を選んだ。はじかれたように俺をきっと睨んできたアルは、次に視線をリコルドに向けた。
「リ、リコルド。お前もその話に、賛成しているのか!?」
「……僕はアルとリモーネの幸せを願っていたんだけどね。お前はちっともリモーネを幸せにするつもりがないみたいだから、オルカに任せた方がいいと思ったんだ」
「……!!」
自分の行動を振り返って、何も言い返せないことに気付いたのだろう。アルは顔を歪ませ唇をかみしめた。
無言の時間がやけに長く感じる。……さて、どう出る? 王子様?
アルの目に、ふいに強い光が宿った。そして俺の目の前までやってきて勢いよく――土下座した。
「オルカ! すまない!!」
「はぁっ!? ちょ、ちょ、待っ!」
「私は……私は、本当はリモーネのことを、あ、愛していたんだ! 君がリモーネと付き合い始めてからこんなことを言うなんて、恥知らずな行動だと分かっている! リモーネが君との未来を望むなら、もちろん全力で応援する! だけど、一度だけでいい。どうか、私の気持ちをリモーネに伝えることだけは、許してほしい……!!」
「わ、わかっ、分かったから! とりあえず立ち上がってくれ!!」
一国の王子が平民に土下座するとかアリか!? どこまで非常識な男なんだ!
今度から土下座の王子様と呼んでやろうか!?
俺が混乱してリコルドに助けを求めると、リコルドは死んだ魚のような目でアルを見ていた。
「なんで平民に土下座をするのは平気なのに、婚約者に愛を伝えられないんだ……」
結局、俺とリコルドはアルにネタばらしをすることにした。何だかもう、見ていて気の毒になってしまったからだ。それに、アルもようやく覚悟が決まったようだし、ここからは俺とリコルドでこいつのフォローをしてやらなければという気になっていた。
本当に……この王子様は規格外だ。相手が誰であろうと誠実に行動しようとするこいつのことを、俺はいつの間にか気に入ってしまったらしい。でも、第二王子で良かったな。腹芸とかできそうもないこいつが国王になったらと思うとぞっとする。幸い年の離れた第一王子にはすでに男児が二人いるから、まかり間違ってもこいつが王になることはないだろうけど。
「ぎ、偽装だったのか!?」
俺とリコルドがリモーネとの関係を打ち明けると、目玉がこぼれ落ちそうなほどに驚いて間抜け面をさらす。美形が台無しだぞ、アル。
「黙っていて悪かったよ。でも、アルが悪いんだぞ。僕があれだけリモーネに告白しろって言ったのにいつまでたってもしないから」
「じゃあ、じゃあオルカは、リモーネのことは何とも思っていないのかっ?」
「いや、まぁ大事な趣味仲間だとは思ってるけどな。お互いに恋愛感情は無いぞ」
俺が言うと、アルがはぁ~~っと長い溜息をついた。
「良かった……オルカの気持ちを踏みにじることにならなくて、本当に良かった……!」
って、おいおい。目元が潤んでるじゃないか! あー……そうか。こいつは俺が本気でリモーネに惚れてると思い込んでたわけだから、罪悪感がすごかったんだな。
本当に……リモーネと張るお人好しだよ。もう少し早くバラしてやればよかったな。
「アル。今度こそ本気でリモーネに告白しろよ」
「いつまでもグズグズしてたら、誰かに搔っ攫われるぜ。自覚は無くてもリモーネはモテるからな」
リコルドと俺が代わるがわる背を叩くと、アルはこれまでの表情を一変させて、薔薇色の笑顔を浮かべた。キラキラした王子様オーラを取り戻したのはいいが、感極まってリコルドと俺に抱き着いて大好きだ! と言うのはやめてくれ。おかしな誤解は受けたくない。
そういうセリフは早いとこリモーネに言ってやれよな。




