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メーラさんを巡るライバルが消えた。
いや、正確にはまだいるはずなんだけど、高位貴族の優良物件は今のところもういない……はず。
アルジェント様に報告しなきゃな~と思うけど、あの人ライバルがいなくなっても喜ばないから、こっちのモチベーション上がらないんだよね。ただでさえ、こっちの恋心を封印して誠実に対応しようと頑張ってるのにさぁ。……いろいろ報われなくて、何だか疲れちゃったな……。
そろそろ、学園は夏季休暇に入る頃合いだ。私も休みは領地へ帰省する予定なので、今のうちに新しい魔法陣の構想を考えておこうと部室で各種資料を漁っていたんだけど……。
アルジェント様のことを考えると、どうも気持ちが塞いでしまう。
いろいろなことが停滞してしまっているような、なにかもどかしい気持ちになってしまうのだ。
はぁとため息をついた私のほっぺたを、ランチアがぷにっと突いた。
「お疲れねぇ、リモーネ。今日はオルカもいないし、もう部活を終わらせちゃって、たまには二人でデートする?」
「あら、そんなの大歓迎よ! でも急にどうしたの?」
「穴場のカフェを教えてもらったのよ。たまにはクリームたっぷりのパフェでも食べに行きましょ」
「パフェ! 行く!!」
どうせ今日はもう研究も進まないし、ランチアも作業がひと段落しているというので、このまま出かけることにした。ランチアと二人でのおでかけは久しぶりだから嬉しい。
ランチアが案内してくれたカフェは繁華街から少し外れた、静かな小径にひっそりと佇んでいた。中に入ると、アンティークの家具が温かい雰囲気を醸し出している。
「素敵なお店! よく見つけたね」
「実はここ、オルソ様の行きつけなんだって。この前連れてきてもらったの」
ほほう。さてはこの前のデートだな。やるじゃん、オルソ様。
私たちはそれぞれフルーツのパフェとチョコレートのパフェを注文した。
ふぉぉ! 生クリームが濃厚で美味しいけど、フルーツも瑞々しくて負けてませんよ!
おっ下にはスポンジも隠れている。うん、美味しい美味しい!
「リモーネ。はい、あーん」
ランチアがチョコレートパフェも食べさせてくれた。こっちも美味しい!
くぅぅ。本当に、私が男だったらオルソ様になんてやらないんだけどなぁ。
私たちはキャッキャウフフとパフェを食べさせ合いっこして、ゆっくりと紅茶を楽しんだ。
窓から入る穏やかな風が、私とランチアの髪を優しく揺らす。
「……ねぇ、リモーネ。あなた、このままでいいの?」
「え……」
急にランチアに真剣な目で見つめられ、私は返事に詰まった。ランチアが言っているのは……きっとアルジェント様のことだ。
「……このままでいいとは思ってないけど……私、もうどうしたらいいのか分からなくなっちゃった……」
ついポロリと泣き言を漏らしてしまったのは、ランチアがあまりにも優しく私のことを見守っているせい。……もう、私はこの想いを自分の胸だけに収めておくことが苦しくなっていたんだ。
「リモーネは、アルジェント様に恋をしているのね」
「……分かっちゃった?」
「うん。私も恋をしたからかな。前よりもこの感情のこと、少しだけ分かるようになってきてね。気付いたの。リモーネがいつも目で追ってるのは、他の誰でもなくアルジェント様なんだって」
ランチアに言われて、改めて自分の鈍感さにため息が出た。ルーポ様がアルジェント様に言われた、失ってから気付いても遅いという言葉が、胸に突き刺さる。
「私、本当に馬鹿だった……。もっと早く気付けば良かった。そうすれば、この気持ちをちゃんとアルジェント様に伝えられたのに……」
俯いた私の手を、ランチアがギュッと握った。
「今からでも遅くないわ。アルジェント様に伝えてあげて」
「でも、アルジェント様が好きなのはメーラさんで……」
「それについても、アルジェント様に確認した方がいいわよ。リモーネの計画が全然上手くいかないの、そのあたりの事情もあるから」
「え? ランチア、何か知ってるの?」
私が聞くと、ランチアは苦笑して言葉を濁した。
「……今はまだ言えないけど、リモーネがきちんとアルジェント様に告白したら、全部教えるわ」
「なぁに、それ?」
「オルカとリコルド様は、私以上に大変だなって話よ」
「???」
よく分からないこともあったけど、私はようやく自分の気持ちを吐き出すことができてスッキリした。
……告白、しよう。この想いに区切りをつけるためにも、私はアルジェント様にこの気持ちを伝えてみせる!




