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放課後になったが、ルーポ様が現れない。
やった! きっとエイミーさんが何か言ってくれたのね! ようやく解放されたわ~。
こんなに早い時間に魔法陣研究部へ行けるのは久しぶりだ。私はルンルン気分で部室のドアを開けた。
「聞いて~ランチア、オルカ! 私、最近ひどい目に……あれ?」
部室内でお茶をしていたのはランチアとオルカだけではなかった。
「リコルド? うちの部室に何か用事?」
「……リモーネ。そこに座れ」
え!? 何か怒ってる!?
リコルドから凍てつくような目で命令された私は、とりあえず素直に席に着いた。
私、リコルドに何かしたっけ?
「リモーネ。君は……ルーポ・グリージョを誑かしたのか?」
ふあ―――っっっ!? まさか、その話題!? ここまで尾を引いてるの!?
「ちがっ! 違うっ! 全然違う! 冤罪よ!!」
私が必死に否定すると、ようやくリコルドの目が穏やかになった。
「……そうか、良かった。きっと何かの間違いだろうとは思ってたけど、噂はガセネタだったんだな」
「幼馴染なんだからもっと信用してよ! 私がそんな不誠実な真似するわけないじゃない!」
「いやでも、君はアルと婚約を解消する予定でオルカとの交際も偽装だから、不誠実ということにはならないだろ? 一瞬、もしかしてと思ったんだよ」
「これ以上人間関係をややこしくするわけないでしょ!」
「それもそうだな」
私は脱力して机に突っ伏した。ルーポ様って私にとって疫病神かも。今後は関わらないようにしよう。
「リモーネが最近、部室に来てくれなくて寂しかったわ。何があったのか、話してくれるでしょ?」
拗ねたように言うランチアが可愛い! もちろん全部話しますとも!
というか、もともとランチアとオルカにルーポ様の愚痴を聞いて欲しかったのだ。噂を真に受けたリコルドもいるしちょうどいい。
私はここ数日にわたるルーポ様の迷惑行為について、三人に熱く語った。
「うわぁ……ルーポ様って、チャラ男系かと思ってたけど、まさかの天然鈍感系だったの……」
「この学園の高位貴族、ポンコツしかいねぇのか?」
「否定できないな……」
三人の私を見る目が同情的なものに変わった。大変だったな、とオルカが労ってくれる。
そう、私は大変だった。ある意味ストーカーに付きまとわれていたわけで。
疲れ切った私に、ランチアがクッキーとコーヒーを勧めてくれた。あ、ナッツ入りだ。香ばしくて美味しい!
「リモーネに突撃してきたエイミーさんって、確かルーポ様の婚約者候補の方よね」
「そうなの?」
「幼馴染らしいわよ。小さい時に仲が良かったから、将来結婚したらいいんじゃないかって家同士で軽く約束したみたい。リモーネたちと似てるわね」
「なるほどね~。だから私に接触してきたのかぁ」
これまで特定の女の子と親しくならなかった婚約者が、突然連日私のとこに通い始めたら、そりゃあ焦るよね。誤解させちゃって悪かったな。まあ全部ルーポ様のせいだけど。
「メーラさんって、なんかちょっと特殊な人に好かれやすいのかも」
アルジェント様にオルソ様にルーポ様。ハイスペックなはずなのに、どこか残念な殿方たちを思い浮かべる。あ、オルソ様は私の誤解だったか。
「お前の言えた義理じゃないと思うぞ……」
「そりゃあ私だってメーラさんのこと好きだけど、あの人たちほどポンコツじゃないと思う」
「いや、そっちの意味じゃなくて……まあいいや」
何だかオルカが可哀想なものを見る目で私を見てきた。何で?
私がオルカを問い詰める前に、リコルドが口を開く。
「リモーネ。君に伝えておかなきゃいけないことがある」
「何? 改まっちゃって」
「実は今日……アルがルーポ・グリージョを呼び出してる」
「はぁ!? え、なに、今日あの人が現れなかったのって、アルジェント様のせいだったの!? 何でアルジェント様が!?」
てっきりエイミー嬢が注意してくれたのかと思ったら、まさかのアルジェント様だったとは!
「僕はリモーネに話を聞いてからにしろって言ったんだけど、あいつ、オルカがいるのにリモーネが浮気なんてするわけないって、絶対グリージョのやつがリモーネにつきまとっているんだってうるさくて……面倒だから好きにさせた」
「いや、面倒って」
リコルドはアルジェント様のお目付け役でしょ? 放置していいの?
だけど、ちょっと嬉しい。アルジェント様は私のこと、ちゃんと分かってくれてるんだ。どこかの幼馴染と違って。
って、ほっこりしてる場合じゃなかった。
「王族からの呼び出しとか、恐怖でしかないじゃない! ルーポ様、大丈夫かなぁ」
「結局心配するんだな、このお人好しめ。まだ学園内では君とアルは婚約者同士だと思われてるから、君に近づかないよう釘を刺すだけだと思うぞ。さすがに暴力は無いはずだ」
「う~ん……それならまぁいいか」
ルーポ様のせいで私も散々な目に合ったわけだし。この程度の災難なら受けてもらってもいいよね。考えるのが面倒になってしまったので、気にしないことにした。
やだ、私もリコルドと同類になっちゃった。




