28
私がルーポ様を華麗に撃退した翌日。
「……リモーネ嬢。少し時間を取ってもらってもいいかな」
ストーカー気質を発揮したのか、放課後待ち伏せされていた。教室を出てすぐに声をかけてくるって、どれだけ前から待ってたの?
ルーポ様は目立つ方なので、周りの視線を集めてしまっている。仕方なく、中庭に移動することにした。
「……昨日は、大変無礼な真似をして本当に申し訳ない」
「えっ?」
深く頭を下げられ、驚いて固まってしまった。直立不動の私に、すっと紙袋が差し出される。
「お詫びの品というわけじゃないけど……ティルモンドのチーズタルトだ。良かったら食べてほしい」
ティルモンドのチーズタルト!? 人気過ぎていつも品切れの!?
……けっしてお菓子に釣られたわけではないが、私は彼の謝罪を受け入れることにした。
「わざわざありがとうございます。私こそ、失礼なことを言って申し訳ありませんでした」
私もたいがいひどいこと言ってやり返したのに、律儀だな~。
悪い人じゃないんだよね、きっと。
「君が怒るのは当然だよ。女性に八つ当たりするなんて、最低なことをした。俺は自分が情けない……」
自己嫌悪に陥っているのか、ルーポ様の表情は暗い。なんかちょっと、可哀想になってきた。
「私はもう気にしてませんから。私も少し反省したんですよ。最近、ちょっとメーラさんを独占し過ぎてたなって」
「……君は、メーラ嬢のことが好きなのか?」
「え? ええ、もちろん! 彼女は優しくて、とても素敵な方だと思います。ちょっと面倒臭がりなところも可愛らしいです」
私がそう言うと、ルーポ様の目がわずかに見開かれた。
「そうか……。てっきり君がアルジェント様とケンカして、ランチを摂る相手がいなくなったから仕方なくメーラ嬢と一緒にいるのかと思っていたけど……君は、他の高位貴族の女性とは違うんだね」
「どういうことですか?」
「学園では表立って平民を差別する人間は少ないけど、高位貴族になるほど平民との平等が気に入らないって輩は多いのに」
「私をそんな時代遅れの人たちと一緒にしないでほしいですね。この学園に入れる能力を持った平民なら、いくらでも我が領に取り込みたいのに」
「ふふっ。俺も同じ意見だ。優秀な人材はいくらでも欲しい」
きらっとルーポ様の目が光った。さすが公爵令息だね。魔物被害で人手はいくらあっても足りないくらいなんだから、有能な人間は喉から手が出るほど欲しいよね!
なんだか少し、彼と分かり合えた気がする。
「サラ嬢やシーナ嬢、スージー嬢はどうもあまり身分が下の人間とは付き合いたくないらしい。俺がメーラ嬢と親しくなりたいと相談したら、平民など俺とは釣り合わないと諭されてしまったよ」
「ん? いや、それは差別意識も多少あるかもしれませんが、大部分は嫉妬なのでは?」
自分の取り巻きの女の子に恋の相談するとか、この人馬鹿なの?
「嫉妬……? 俺は別に、サラ嬢たちと付き合っているわけではないよ? ただの友達だ」
「あなたはそう思ってても、彼女たちは友達以上になりたいと願っているんじゃないですか? なにか勘違いさせるような贈り物とかしてません?」
私が指摘すると、ルーポ様がうっと詰まった。噂ではルーポ様はいろんな人に贈り物をしてるみたいだったから探りを入れてみたけど……こりゃ何かやらかしたな。
「……以前、深く考えずに彼女たちにアクセサリーを贈ったことがあるんだ。ちょうど祭りがあって、露店の品で安かったから髪飾りを……」
「シチュエーションにもよるでしょうけど、何とも思ってない女の子にアクセサリーはやめた方がいいですよ。消えモノが無難です」
「どうりであの日からやけにみんな、距離が近くなったり二人きりで会いたがったりしたわけか……」
うわ、この人すっごい鈍感。私の周りの人間って鈍い人だらけだ。ん? 類は友を呼ぶ? 私はここまでひどくはないと思う。
「……メーラさんと親しくなる前に、人間関係を清算した方がいいと思いますよ」
ちょっと辛辣なアドバイスになってしまったが、しょせん他人事なのでまぁ頑張れと心の中でエールを送った。




