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「おい、リモーネ……」
私の隣に座っていたオルカが、アルジェント様たちに聞こえないよう小声で呼ぶ。
「ん? 何? 私のイチゴ、食べる?」
あーんとスプーンを近づけると、オルカはぎょっとしたように身体を引いた。
「ばっ! ばかっ! そうじゃねえ! 目的を思い出せ!」
「目的?」
……はっ! そうだ! 私ってば、すっかりジェラートを楽しんでいたせいで忘れてしまってたけど、アルジェント様とメーラさんを近づけるためのお出かけだったんだわ。
危うくただ放課後友達と遊びに来ただけになるとこだった。ナイス、オルカ!
私は慌ててジェラートを食べ終えると、アルジェント様とメーラさんに声をかけた。
「二人とも、ごめんなさい! 私、この後部活で使う魔石を買いに行かなきゃいけないんでした! 私はここで失礼しますね」
私がそう言うと、アルジェント様がずいっと身を乗り出した。
「魔石は重いだろう? 荷物持ちに付き合うよ」
「いえいえ、ご心配には及びません! オルカに持ってもらいます」
さあ、これでメーラさんと二人きりになれますよ!
私がオルカの腕を引こうとすると、アルジェント様がしゅばっと素早い身のこなしで私とオルカの間に割って入った。そしてオルカと至近距離で見つめ合う。
「……オルカ。私が代わりに行くよ。いいだろう?」
「あ、ああ分かった。よろしく頼む」
ええ!? オルカがあっさり引き下がった! 噓でしょ、この裏切り者!
長い物に巻かれる主義だったの!?
「さあ、行こうかリモーネ。メーラ嬢、今日は楽しかった。また明日、学園で」
「リモーネ様、アルジェント様、お気をつけて~。今日は誘ってくださってありがとうございました!」
呆然としていると、アルジェント様に腕を引かれ店の外に連れ出された。
え? 何、この展開?
「アルジェント様! どうして私を連れ出すんですか! 相手が違うでしょ!」
「わ、私は……私は、君をオルカと二人きりにさせたくなかったんだ!」
「へ……?」
どういうこと?私とオルカを二人きりにさせたくないって……。
それってもしかして……!
「ダメ出しですか!?」
「はぁ?」
「私の新しい婚約者として、オルカは不適格ということでしょうか……」
やっぱり、シスコンの兄の目は厳しいのか。超ハイスペックな男性を紹介しようとしてきたアルジェント様だから、ちょっとガサツなオルカでは心配になってしまったのだろうか。
「そ、そうじゃない! そうじゃなくてっ……ああ、どうしてリモーネはこんなに鈍い……いや、私が勘違いさせたせいか……」
アルジェント様が何やらぼそぼそ言ってるが、一部私の悪口じゃない? 鈍いだなんて失礼な。アルジェント様の方がよっぽど鈍感のくせに!
「……リモーネ。最近昼食を別に摂っていたから、ゆっくり話すことができなかっただろう? 今日は、私に付き合ってほしいんだ……オルカではなく」
真剣な瞳で見つめられて、思わず心臓が跳ねた。今まで挙動不審な言動ばかりだったから落ち着いていられたけど、いざ普通に対応されるとドキドキしてしまう!
「つ、付き合うって、ど、どちらまで?」
「ジェラートを楽しんだ後は、美味しいカフェラテでもどうかな?」
「……喜んで」
行きつけのカフェでコーヒータイムを過ごす間、私たちはたわいもない話をした。
今まで何度も同じような時間を過ごしていたはずなのに、どうしてだろう。
私とアルジェント様の間にあった雰囲気が、なんだか変わった気がする。
アルジェント様の私を見つめる瞳が、いつもより甘やかな気がするのは、私の気のせいだろうか。いつもはこんなこと無いのに、私はアルジェント様の顔を直視できなくなっていた。
帰り際に花を贈られるのも初めてではないはずなのに、心臓の鼓動がうるさい。
……私は自分の心が泥沼に沈んでいくことを予感した。




