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メーラさんを巡るライバルが一人減った。いや、減ったというか、私の勘違いでもともとカウントされていなかったわけだけど。
一応、アルジェント様に報告しといた方がいいかと思った私は、久しぶりに彼をランチに誘った。
「う、嬉しいよ、リモーネ! 君からランチに誘ってくれるなんて!」
「ちょっと報告がありまして」
「な、何かな!?」
ソワソワと身じろぎしながらウロウロと視線をさまよわせるアルジェント様。どうも最近、アルジェント様は落ち着きが無い。前はもっと余裕があったというか、私に対して兄のように接してきたのに、このところ視線も合わないし座る位置も微妙に遠くなっている気がする。
……もしかして、嫌われたのかな?
ズキッと胸が痛む。婚約者じゃなくなっても、仲の良い幼馴染ではいられると思っていた。
だけど、アルジェント様にとって婚約を解消した私は、もう用無しなのかもしれない。
思わずギュッと拳を握りこんだ。
「……リモーネ? どうした? 何かあったのか?」
固く握りこんでいた拳が、アルジェント様の手にそっと包まれる。
驚いて顔を上げると、アイスブルーの瞳が私をじっと見つめていた。その瞳は、私のことが心配だと力強く語っている。
……アルジェント様は、まだ私のことを大切に思ってくれている。
ダメだな、私……。アルジェント様は一度懐に入れた人間を切り捨てるようなことしないって、分かっていたはずなのに。
たとえ恋ではなくたって、私とアルジェント様との間には、幼い頃からの確かな信頼があるんだ。それを疑うことは、彼に対してとても失礼なことだった。恋は人を愚かにするって聞くけど、本当なのかも。
私は大きく深呼吸すると、気持ちを切り替えた。うん、大丈夫。いつもの前向きな私に戻れている。
「心配をかけてごめんなさい、アルジェント様。ちょっと自己嫌悪するようなことがあったんですけど……今、解決しました!」
「えっ? い、今???」
「恥ずかしいので詳しい内容は秘密ですけど……アルジェント様のおかげで、立ち直れました。ありがとうございます!」
「ふあっ!?」
とびきりの笑顔でお礼を言ったのに――顔を真っ赤にしたアルジェント様は奇声を上げて動かなくなった。
なんで!? やっぱりこの人、病気じゃないの!?
その後どうにか復活したアルジェント様に、オルソ様とランチアのことを話したのだけど・・・思ったより食いつきが悪い。ランチアが私の親友だということは知っていたので、いい縁に恵まれて良かったなと言ってくれたけど、ライバルが減って喜ぶ様子が全く無いのはなぜだろう。
「あの~……嬉しくないんですか?」
「何が?」
「私の勘違いだったとはいえ、恋のライバルが減ったのに……」
私が聞くと、アルジェント様はまた挙動不審になった。恋!? あ、そうか、いや、でも……と一人でぶつぶつ呟いている。ちょっと怖い。
「リ、リモーネ!」
「はい、何でしょう?」
「その、私は、その……!」
上下左右に首を動かして、何がしたいんだアルジェント様。言いたいことがあるなら早くしてほしい。
「わ、私は、君を! 君を、あ、あい……あい……す、屋に……連れて、行きたいと……」
「はぁ? アイス屋? ……ジェラート食べたいんですか? アルジェント様」
「いや、違っ! え~と、その!」
なるほど。男性一人でジェラート屋に並ぶのは、確かにちょっとハードルが高いのかもしれない。私に付き添ってほしいというわけか。そのくらい、いつでも付き合ってあげるのに。
「さっそく放課後行きますか? ……あ! そうだっ! ついでに、オルカとメーラさんも誘いません? オルカを紹介できるし、私たちが途中で消えればメーラさんとデートできますよっ!」
我ながら、なんて素晴らしいアイデアだろう! 天才じゃない?
私が笑顔でアルジェント様に提案すると、アルジェント様が慌てだした。
「そ、そんな! マーレ君はともかく、メーラ嬢には迷惑だろう! さ、三人でいいんじゃないかな?」
「もちろんメーラさんに無理強いはしませんけど、彼女スイーツ大好きなので、多分来てくれると思いますよ」
「いやでも、しかし……」
「放課後サロンで待っててくださいね!」
「あっ! リモーネっ!」
いつかのデジャヴのようだが、私はアルジェント様を放置してとっとと逃げた。
アルジェント様は消極的過ぎるから、私がうまく段取りを組まないといけない。残り少ない昼休みの間に、私はどうにかオルカとメーラさんに誘いをかけることに成功した。




