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熱に浮かされたようなオルソ様にうっとりと見つめられ、ランチアがものすごく焦っている。そりゃそうだよね。シュークリームあげただけで求婚されるなんて、夢にも思わないよ。
「あ、あの! オルソ様! ひとまず落ち着いて! ランチアが困っていますし」
私が声をかけるとはっと正気に戻ったようで、オルソ様が慌てて立ち上がった。
「す! すまないっ! 困らせるつもりは無かったんだ! あの、あまりにもあなたのシュークリームが美味し過ぎて、つい……!」
ん? ついだと? ……これはダメね。私は、ランチアを守るようにオルソ様の前に立った。
「オルソ様。それはつまり、お菓子作りが上手なら誰でもいいってことですよね? ランチアよりお菓子作りが上手な女性がいたら、すぐにそちらに乗り換えるんでしょう? そんなろくでもない男性に、私のランチアを渡すわけにはいきませんわ!」
「お、俺は、そんな不誠実な人間ではっ……」
「あなたはランチアのことなど何も知らないではないですかっ! ただ彼女のシュークリームを食べただけで、友人ですらないくせに図々しい! 二度とランチアに声をかけないで下さいっ!」
「そ、そんなっ……」
ものすごく打ちひしがれたオルソ様に、ちょっと言い過ぎたかなと罪悪感が生まれたけど、ランチアのお菓子作りの腕だけを求めるような男に大切な親友は任せられない。
「……濃厚なエルビーナ産の卵に、癖のないフォンロー種のミルクの掛け合わせが、見事だと思ったんだ・・・。クリームのなめらかさで、とても丁寧な仕事をする方なのだと……きっと食べる人への愛情が深い方なのだろうと思ったら……身体が動いてしまっていた」
ぽそぽそと話すオルソ様の言い訳を聞いていたランチアが驚いて顔を上げた。
「……よく材料の産地がお分かりになりましたね」
「実は、甘い物には目が無くてな。自分で作ってみたこともあるが、俺はあまりにもガサツだから向いていなかったようだ。菓子作りは徹底した計量や温度管理が必要だが、繊細で丁寧な作業は苦痛でな……」
分かります分かります、作りたい欲求はあっても面倒なんですよね、とメーラさんがうんうん頷いている。この子、意外と面倒臭がりなのかも。
「俺は、自分にはできない丁寧な仕事をする人間に惹かれてしまうのだ。その仕事ぶりで相手を分かったような気になるのは、俺の悪い癖だな。リモーネ嬢の指摘は当然だ。見ず知らずの男にいきなり求婚されて怖い思いをさせてしまった……大変申し訳なかった」
深く頭を下げるオルソ様。衝動的ではあったものの、ランチアの人間性に惹かれたという点は評価してあげてもいいか。ただの技術目当てじゃなかったのね。
「あ、あの……私、今までいろんな方にお菓子を食べてもらってきましたけど……材料の産地まで当てられたのは初めてなんです。も、もしよろしければ……お、お友達になっていただけたら……」
顔を真っ赤にしたランチアがもじもじと話す。か、可愛いっ! こんな可愛い攻撃されたら、私でもメロメロになってしまうわ! ちらりとオルソ様に視線を向ければ、
「たっ! 大変、光栄でありますっ! ど、どうぞ、よろ、よろしく、お願いしまふっ!」
あ、噛んだ。
茹でだこみたいになっているランチアとオルソ様。
……予想もしなかったところに、恋が生まれてしまった。




