18 アルジェントサイド
リモーネと上手く話せない……!
昨日、リコルドに私が本当に恋をしているのはリモーネだったと聞かされて――その場で気絶してしまった。あまりの衝撃に、脳が耐えられなかったのだろう。
自室だったので良かったが、リコルドには大変迷惑をかけてしまった。私が起きるまで看病してくれていたし。
意識を取り戻した私に、寿命が縮まるかと思ったと悪態をついたリコルドだが、その後も食事を部屋に運んでくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「……お前、頭良いはずなのに、ものすごい馬鹿だったんだな……」
しみじみと言われ、私は何も反論できなかった。
本当に、私は馬鹿だ。馬鹿で鈍感で、ろくでなしだ。
これまでの人生、常にリモーネだけを見てきたというのに、ほんの一瞬見惚れた少女に恋をしたと勘違いしてしまうなんて。
魅力的な異性がいれば、そちらに注意が向いてしまうのは男女問わず当然のことなのだとリコルドに言われ、そうだったのかと驚いた。私にはそんな経験が無かったから。
思えば、勉強と公務の時間以外は、ほぼ魔法の習得に時間を費やしていたので、色恋のことにはめっきり疎くなっていた。リモーネという完璧な婚約者がいたので、特に他の女性と親しくなりたいという欲求も生まれなかったのだ。
その弊害がここにきて問題を起こした。
「リコルド……私はこの先、どうすればいいだろうか……。リモーネは、もうマーレ君と交際を始めてしまった。今更元に戻りたいなんて虫のいいことは言えない……」
「アル、実はな。リモーネとオルカ・マーレは……あ、いや……」
リコルドが何かを言いかけて考え込み、口を閉じた。
「……何でもない。アル、お前、ここではっきりリモーネに伝えないとだめだ」
「伝える? 何を?」
「お前の、正直な気持ちだよ。やっと自覚したんだろ? それを、リモーネにぶつけろよ」
「だ、だが! そんなことをしたらリモーネとマーレ君の迷惑になってしまう……」
思わず俯いた私の顔を、リコルドが無理やり上げさせた。
「お前、それで後悔しないのか!? リモーネがお前以外の男の隣で幸せそうにしてるのを、黙って祝福してやれるのか!?」
「っ!!」
反射的に、嫌だ! と思った。私以外の手がリモーネをエスコートして、私以外の腕が彼女を抱き締めるなんて――!
ぐっと拳を握りこむと、リコルドが穏やかな顔でこちらを見ていた。
「……手遅れになる前に、ちゃんとリモーネと向き合えよ」
「分かった……。リコルド……ありがとう」
リコルドがいなかったら、私は気付かないまま大切なものを永遠に失っていた。
彼の行動に報いるためにも、私はきちんとリモーネにこの想いを告げる!
そう、覚悟していたのに……。
自分の気持ちに気付いてしまった私は、リモーネとの距離の取り方がすっかり分からなくなっていた。朝の挨拶すらまともに返せず、リコルドの元へ逃げ出す。
「お前、ヘタレすぎるだろ!」
「だ、ダメだ! 何だかリモーネがいつもより輝いて見えて、直視できない!」
「だあぁぁぁ! 何でこんなにこじれるんだよ! もう僕の手に負えない……!」
この日は一日、まともに授業を受けることができなかった。