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オーバーランダー:氷河期世代のおっさん、宇宙英雄を目指す!  作者: 渡邊章介


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001-栗辺颯太郎、41歳

SFです。スペオペですが、壮大なスペースロマンというよりは、単純明快な勧善懲悪のスペースアクションでございます。銀河英雄伝説よりは、ペリー・ローダンシリーズといった感じですか。


当面は不定期に掲載させていただきます。

 彼の名前は栗辺(くりべ)颯太郎(そうたろう)。41歳の派遣社員であり、典型的な氷河期世代だ。

 もともとは東京生まれの東京育ちだったが、仕事と物価の安さに惹かれて今は関東某県の田舎町で生活している。


 趣味はこれといってなし。敢えて言えばスマホで下らない動画を見る事くらいだ。当然、彼女もなし。女性との交際経験もなし。無論、童貞だ。女性との接点と言えば、職場で仕事関連の話をする程度。親しい、そして個人的な話などした事も無い。風俗に興味がないと言えば嘘になるが、慢性的な金欠の為、そして予備知識が無い為、どうしても足が向かない。誘ってくれるような友人もいない。


 高校の頃にはそこそこモテた。身長も180センチ近いし、昔から太ったことも無い。顔立ちも十人並み以上だ。

 しかし高校の頃に父が病死、大学時代は学校とアルバイトに明け暮れる毎日で、彼女を作るどころではなかった。

 そして大学時代に今度は母が怪我で寝たきりになり、就活もままならずに一人っ子だった栗辺は介護生活へ。ただでさえ就職が厳しかった氷河期世代というのに、いきなり出遅れてしまったのだ。


 結局、母は大学卒業直前に他界。就職も決まらずアルバイトで糊口をしのぎ、その後は派遣社員としてあちらこちらの職場を渡り歩く日々が十数年続いている。


 これだけあれば定職が決まるまでなんとかしのげるだろうと思っていた、両親の保険金もすでに底を付きついには住み慣れた東京からも離れる事になってしまった。


 新しい職場は、新居とは少し離れていたが、路線バスもあったし大丈夫だろうと思っていたが、そこが都会育ちの盲点だった。

 路線バスは夕方でおしまい。仕事が終わる頃までは走っていないのだ。

 おかげで会社までは自転車で通う事になってしまった。会社の人間からは、中古でいいからクルマを買ってはどうかと勧められているが、引っ越したばかりでまだ余裕が無い。

 雨の日はつらいが、当面は自転車通勤だ。


 その日も栗辺は自転車を漕いで帰宅途中だった。

 明日は休日。こんな日はチューハイか缶ビールの一本とつまみでも買い込み、夜はスマホで動画でも見つつ晩酌としゃれ込みたいところだが、生憎と自宅近所にはコンビニもない。まだ冷蔵庫も買っていない。スーパーとは名ばかりの、個人経営の雑貨屋はあるが、栗辺が帰宅する頃には閉まってしまう。

 田舎は夜が早いのだ。


 今日も会社近くのコンビニで缶ビールとつまみ、暑くなってから家に入り込む蚊に悩まされていたので殺虫スプレーも購入。ついでに帰宅途中で飲む為のミネラルウォーターのペットボトルも買い込み帰路に就いた。


 荷物は重いし、帰宅する頃にはビールもぬるくなってしまう。出来れば休日に買い出しに行きたいのだが、雑貨屋は品が少ないし、大型スーパーは自動車でなければ行けない場所だ。それ以前に仕事がきつくて、休日は何もする気が起きない。


 やっぱ中古でいいから自動車買うか……。しかし維持費やガソリン代、自動車税を考えると、東京に居た方が良かったのかな……。


 そんな事を考えながら栗辺は自宅へ向かって自転車を漕いでいた。


 その時だ。突然、頭上が明るく閃いた。

 ん、なんだ? 雷か? でも天気は良いはずなのに。


 栗辺は自転車を止めて頭上を見上げた。また鋭い閃光が走る。稲妻ではない。動いてる。何か輝く物体が頭上をめまぐるしく動き回っているのだ。


 なんだ、なんだ!? UFOか?


 そういえばこの辺りは比較的UFOの目撃例が多いというネット動画を見た覚えがある。何か地元で面白いネタが無いかと探していた時、偶然、見つけたのだ。

 栗辺はUFOなどまったく信じていないから、その時はサムネを確認しただけで、スルーしていたのだが、まさかそれらしき現象を目撃するとは……。


 待て、まだUFOと決まったわけでは無い。そもそもUFOは未確認飛行物体だ。確認できたら未確認飛行物体では無い。

 誰がドローンにLEDを着けて遊んでいるのかも知れないし、映画の撮影かも知れない。自衛隊や警察のヘリが行方不明者を捜しているのかも知れない。

 しかし滅多にない経験なのは確かだ。

 どうする? スマホで動画でも撮るか?

 栗辺はスマホを取り出して空に向けたが、動きが激しいので追いきれない。


 そのうちその飛行物体は爆発的な閃光を上げた。周囲が昼間のように明るくなったほどだ。栗辺も思わず目を閉じた。そして再び目蓋を開けた時、何かが道路のすぐ横にある小山に向かって落ちていくところだった。

 木をなぎ倒す音に続いて、何かそこそこ重量があるものが落ちるどーんという音が響いた。


 間違い無い。実体のある物体だ。飛行機か? ヘリか? 少なくとも個人が趣味で飛ばせるような小型のドローンでは無い。


 周囲に広がるのは田畑だけだ。道路にいるのも栗辺の自転車だけだ。かなり音がしたのに、近くに人家がないから慌てて駆け出してくる人もいない。

 しかしかなり大きな音だ。人家のある所まで響いただろう。そこから警察に連絡すれば、そのうちパトカーなり消防車なりが来るだろう。


 面倒は御免だ。帰るか。一度は自転車のペダルに足を掛けた。しかしそこで栗辺は思い直した。

 商売っ気が鎌首をもたげたのだ。

 何が落ちたか分からないが、撮影して動画サイトに投稿すれば、ちょっとした稼ぎになるかも知れない。テレビ局から使いたいと言ってくれば、使用料をふんだくっても良い。自動車を買う足しになれば……。


 そんな金銭欲物欲に促されて、栗辺は飛行物体が落ちた小山の方へ急いだ。小山といってもほぼ丘だ。土地の権利問題なのだろうか、田畑の中にぽつんと取り残されているのだ。

 あぜ道を通って麓に着いた栗辺は自転車を置き、自転車備え付けの懐中電灯を取り丘を登ろうとした。そこで一旦、足を止める。自転車の籠に放り込んであるレジ袋が気になったのだ。

 中には缶ビールとつまみ、ミネラルウォーターのペットボトルが入っている。殺虫剤のスプレー缶もだ。辺りに人気は無いが、戻ってくるまでに、通りすがりの誰かに持って行かれるのは癪だ。それに丘に登れば虫も出るだろう。殺虫剤は役に立ちそうだ。結局、レジ袋ごと買い物を持って行く事にした。


 幸い火は出ていない。煙もないようだ。これでは音に気づいて外を見た人が居たとしても、この丘に何かが落ちたとは思わないだろう。この辺りには熊はもちろん、イノシシも滅多には出ない。夜、人気の無い丘に入っても大丈夫だろう。


 すこし登ると木々がなぎ倒されていた。やはりある程度の大きさの物体が空中から落ちてきたのは間違い無い。

 なぎ倒されている木々の間隔からすると、それは軽トラック、いやもう少し大きいマイクロバス程度の大きさだろうか。


 当然、近くに街灯もない。自転車で走ってきた道を照らす街灯と月の明かりだけが頼りだ。それだけでは心許ないので、懐中電灯を高く掲げた。

 すこし歩いて倒れた木の間から見えたそれに栗辺は思わず首を傾げた。


「スワンボート?」

 そうだ。見た目の印象はスワンボートだ。湖や遊園地の池などで、親子連れやカップルなどが乗る、あの白鳥型のボートだ。

 彼女いない歴=年齢の栗辺は当然カップルで乗った事は無い。辛うじて小学生の遠足で友達と乗った記憶があるが、それも男子だったはずだ。


 しかしなぜ山の中にスワンボートが落ちてきたのだ。いや、それよりも目の前に見えてきたそれは、栗辺の知るスワンボートより一回りか二回りほど大きい。そして翼のようなものもある。白鳥の翼では無く、飛行機の翼に近い。さらに言うなら全体が金属光沢だ。


 つまりこれは見た目こそスワンボートを連想させるが、実際にはまったく異なる物体なのだろう。だがこれはなんだ? UFOか? しかしスワンボート型UFOなんて聞いた事がない。

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