第1話 黒猫は静かに扉を開ける
はじめまして、またはようこそ。
本作『黒猫の晩餐』は、「正義では救えなかった者たち」が、自らの手で裁きを下す――そんなダークでクールな“復讐劇”です。
第1話では、まだ物語の扉が静かに開いたばかり。
少女の願いと、《黒猫の晩餐》の存在が交差する瞬間を描きました。
「正義とは何か」「救済は誰の手にあるのか」
そんな問いを抱えながら、お楽しみいただければ幸いです。
夜。新宿の裏路地に、ひときわ目立たぬクラブの扉があった。
看板はない。照明も、音楽も聞こえない。ただ、扉に刻まれた黒猫の紋章だけが、訪れる者に合図を送っていた。
少女は震える手で扉を叩いた。
三回、間を置いて二回。そして、また一度。まるで暗号のように。
カチリと、音が鳴る。
重たく、しかし優雅に扉が開いた。
「ようこそ、《黒猫の晩餐》へ」
出迎えたのは、白髪交じりの黒スーツ姿の男だった。背筋を伸ばし、まるで執事のように品がある。
だが、その眼は氷のように冷たい。
「……あなたが、“シェフ”?」
少女の問いに、男は静かに微笑んだ。
「違います。私は案内役、“サーバント”と呼ばれております。シェフは奥でお待ちしております」
少女は一歩、そしてまた一歩と中へ足を踏み入れた。
中はクラブというより、まるで豪奢な晩餐会のようだった。重厚な木製のカウンターに、燻された香りの酒瓶、奥に長く伸びる赤絨毯。その先には、銀の猫ブローチを胸に飾った男がいた。
「初めまして。私は《黒猫の晩餐》を管理する者――“シェフ”です」
彼はまるで料理人のように白い手袋を嵌めた指先で、少女の資料に目を通していた。
「あなたの依頼は、“復讐”ですか?」
少女はぎゅっと拳を握った。
「……はい。法では、裁けない。だから……だから、お願いです。あの人たちを……消してください」
沈黙。
まるでこの場の空気が止まったかのようだった。
シェフはカップの紅茶を一口飲み、言った。
「復讐は感情です。感情は、料理にとって最大の敵。ですが……味付け次第では、最高の一皿にもなり得る」
そして、彼は指を鳴らした。
「案件受理。《コード・シルエット:夜猫》、発動」
黒猫の仮面をつけた三人の男女が、闇の奥から現れる。
それぞれが異なる過去を背負い、異なる刃を持つ“影の執行人”たち。
そして、少女の物語は静かに始まった。
それは、誰にも救われなかった者が、自らの手で正義を取り戻す、闇の物語。
《黒猫の晩餐》――最初の復讐が、幕を開ける。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
第1話では、物語の雰囲気とキーパーソンである《シェフ》の存在、そして《黒猫の晩餐》という組織の一端をお見せしました。
この世界には、“救われなかった誰か”のために、静かに牙を研ぐ者たちがいます。
次回からは、依頼者の復讐がどのように実行されていくのか、
それぞれの登場人物たちがどんな過去や葛藤を抱えているのか、徐々に深掘りしていきます。
ぜひ引き続き、お付き合いくださいませ。
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