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レイジング・ブレイカー 後編

一応今回で完結です。

〇チャプター11.最終決戦



 辺りをうろつき、襲い掛かってくる残党達を倒しながら、義也と怜奈はボスの居る部屋へと向かって行った。

 義也はG36を構えながら、ホーの居るバーがある大部屋に足を踏み入れる。

 ホーはまだバーにおり、グラスにバーボンを注いでいた。

「…それが、最後の一杯だ」

 義也はそう言って、USPを構える怜奈と共にホーに近づこうとする。

 ホーは二人の方に顔を向け、余裕そうな風に、影のある薄ら笑いをゆっくりと見せつける。

「ようこそ、俺のマイルームへ」

「お前の部下は全員倒した。お前が、最後の一人だ」

「お~、やるねぇ~」

 ホーは空になったバーボンの瓶を辺りに投げ捨ててから、グラスに口を付けてバーボンを飲み始める。

 義也は彼の顔を見つめ、先の任務などで見かけたりしたかどうか確かめようとしたが、どう記憶を探っても彼の顔に見覚えは無かった。

「…お前、何者だ?俺達を狙う目的は何だ?」

 ホーはグラスから一度口を離して、テーブルにグラスを置いて答える。

「俺は香港で大々的なビジネスを行う男だ。

 今回この国に来たのもビジネスのためだ。

 だが…この国での売買の視察中に、お前らが現れた」

「…暁埠頭の時か?」

「ご名答~。

 調べてみたら、「レイジング・ブレイカー」なんて危なっかしい連中だって聞いてね。

 ビジネスの邪魔だから、消そうと思ったのさ。

 丁度、ミスター剣崎の部下が脱走に成功してたから、利用させてもらったよ」

「小賢しい奴め…

 だがそのビジネスも、もうお終いだ」

 義也がそう言うと、怜奈が彼の隣に立って、USPの銃口をホーの顔面に向ける。

「私達の仲間を傷つけた罪、償ってもらうよ!!」

 そう言い放ちながら、怜奈はホーを睨みつける。

「ふ~ん…

 よし、じゃあこうしよう」

 そう言ってホーは、義也と怜奈に気づかれないように、テーブルの下に手を入れる。

 そして即座に、隠し入れていたG36を取り出して、二人に向けて引き金を引いた。

「俺を殺せたら考えてやるよッッ!!!!」

 義也と怜奈はすぐに左右に飛び込んで弾丸を避け、義也は柱の陰、怜奈はソファの陰に隠れる。

 ホーはG36の引き金を引いたまま怜奈の方に向ける。ソファはあっという間に風穴が開き、怜奈は後方にあるガラス張りのテーブルの後ろに飛び込むが、そのテーブルもあっという間に粉々になる。

「やっば…ッ!!」

 更に向かいにあるソファの陰に飛び込むと、ホーは弾切れになったG36を投げ捨て、バーのテーブルを蹴り倒す。

 するとそこには、厚い布で覆われた大きな物体があり、ホーはその布をガシッと掴んで引き剥がす。

 そこにひっそりと佇んでいたのは、大量の弾丸が付けられている給弾ベルトが取り付けられている、M60機関銃だった。

 柱の陰から様子を伺っていた義也は、その銃を見て驚愕する。

「M60機関銃…!?

 怜奈、逃げろッ!!!」

 怜奈に向かってそう叫ぶと、怜奈は更に後方にある柱に向かって大急ぎで逃げ込もうとする。

 ホーはM60を持ち上げ、二人、特に逃げ惑う怜奈に向けて弾幕を放ち始める。

 毎分500発以上の強力な弾丸が襲い掛かり、先程まで怜奈が身を隠していたソファはあっという間に粉々になり、綿や羽毛を盛大に辺りに撒き散らす。

 怜奈は間一髪柱の陰に身を潜めることができたが、柱の端が瞬く間に破損し、鉄筋の骨組みが露わになる。

 義也はホーの隙を突いてG36を彼に向けて発砲するが、弾丸はホーの後ろにある棚に陳列された酒瓶を砕くだけで、ホーに当たることはなかった。

 ホーは義也の方に向けてM60を乱射する。義也が身を潜める柱は盛大に砕けて煙を立たせる。

 ホーは一度引き金から指を離すと、棚の中から義也の弾丸を受けずに済んだ酒瓶の中から、スピリタスというアルコール度数がかなり高いウォッカの瓶を手に取る。

 それを義也の方に向かって投げつけると、再びM60を握り、義也の方に向かっていくスピリタスの瓶に狙いを当て、引き金を引く。

 M60の弾丸を受けたスピリタスの瓶は砕け散り、中に入っていたスピリタスが、粉々になった柱と義也に降り注ぐ。

「マズイ…ッ!!!」

 ホーの考えに気づいた義也は、咄嗟に柱から離れると、M60の弾丸が鉄筋の骨組みに当たって火花を散らし、辺りに撒き散らされたスピリタスに降り注ぎ、辺りはあっという間に炎に包まれた。

 義也の上着に運悪く炎が点き、義也は走りつつ上着を脱いで、辺りに投げ捨てた。脱ぐ際に左手が炎に当たり指先が火傷を負ってしまった。

 別の柱の陰に身を潜めた義也は、火傷を負って赤くなった左手で、G36のマガジンを抜いて残弾を確認する。あまり弾は残っていない。

 マガジンを再びセットし、ホーの隙をまた伺おうとしたが、ホーはM60を怜奈の方に向けて引き金を引き続けていた。

 怜奈が身を潜める柱はみるみるうちに破壊されて粉々になっていき、怜奈の周りを見ると、もう身を潜めることのできる物が無いことに気づいた。

 彼女もそのことに気づいており、顔が青ざめていく。

「や、やばいよ…これ、アタシ…っ!!!」

「怜奈…ッ!!!気をしっかり持て…ッ!!!」

 義也の気休め程度の慰めは、M60の発砲音でかき消される。

 何か…何か策は無いか…!?


 そう思考を巡らせていると、

「うおおりゃああああぁぁァァァ~~ッ!!!!」

 と、二人には聞き馴染みのある声で雄叫びが、大部屋の出入り口から聞こえてきた。

 その直後、声のした出入り口から、ホーに向かって弾幕が飛び出してきた。

 ホーは咄嗟に身を屈め、倒したバーのテーブルの陰に身を隠す。


 一度弾幕が止むと、大部屋の出入り口に、弾幕を起こした人物が、おぼつかない足取りをしつつも堂々とした雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと姿を現した。

 一度立ち止まると、義也と怜奈がその人物の姿を捉える。


 そこに立っていたのは、愛里だった。

 愛里の身体に巻かれていた包帯は緩み、病院で身に付けていた衣服を着つつ、道中で敵から剥ぎ取ったであろう黒い上着を羽織っている。それらは既に血や泥で汚れている。

 彼女の手には、恐らくホーの部下が使っていた武器庫から持ち出してきたであろう、大量の弾丸を備えた長い給弾ベルトを装着した、FN・ミニミ軽機関銃が握られており、銃口から濃い硝煙が立っている。

 両肩にも、ベルトを付けてあるG36やSCAR-Lを掛けている。

 愛里は二人と目が合おうと、「フッ…」と静かに笑って見せる。

「愛里…!?」

「愛里…ッ!?どうしてここに…ッ!!?」

「二人共…水臭いじゃないですか…!私を置いて行くなんて…!

 私達三人で、3rdアタッカーでしょう…?」

 そう言って愛里はより口角を上げて、ニッコリと笑って見せた。

「…全く…ッ!!反抗的な仲間を持ったものだな…ッ!!」

 義也はそう言いながらも、愛里が元気そうな様子を見て気が和らぎ、口元が緩んでいた。

 愛里はホーに向かって再びミニミを乱射しつつ、怜奈の方に向かって走り出した。

 ホーが使っていたM60は集中砲火を受けて粉々になり、ホーはバーの後ろにある小さな部屋に入って行った。

 愛里は怜奈の隣まで来ると、弾切れになったミニミを無造作に降ろし、肩に掛けていた銃も降ろそうとする。

 怜奈は助けに来てくれた、元気そうな愛里を見つめて嬉しそうに、思わず抱き締めた。

「愛里ぃ~~っ!!助かったよぉ~~っ!!」

「フフッ…怜奈と義也さんも、無事でよかった…!!

 怜奈、これ使ってっ!!義也さんはこれをっ!!」

 愛里はそう言って、怜奈にSCARを渡す。怜奈に渡し終えると、上着のポケットに仕込んでいた、弾が込められたG36のマガジン二本を取り出し、床に置いて、義也の方に向かって滑らせて義也の手に渡らせる。

 受け取った義也は、すぐにマガジンを交換した。

「助かるッ!!ありがとう愛里ッ!!」

「どういたしましてっ!!」

 愛里も肩に掛けていたG36を構え、ホーを迎え撃つ準備を整える。


 小さな部屋から、再び姿を現したホーは、防弾チョッキに身を包み、両手にMP5を持ち、ドラムマガジンとベルト付きのG36を身体に掛け、ポケットに手榴弾をギッシリと入れていた。

「ハッハッハッハッ!!!!面白くなってきたじゃねぇかッ!!!!

 全員まとめて、地獄の底に送ってやるわァッ!!!!」

 そう叫ぶと、彼は三人に向かってMP5を乱射し始める。

 怜奈と愛里は顔を合わせて、一度「うん!」と同時に頷くと、怜奈が柱の陰から顔と、SCARの銃口を曝け出して、ホーに向かって発砲し始める。

 愛里はその間に、柱の陰から走って前に出て、半分崩壊した柱の陰に移る。

 その間ホーは怜奈に意識を向けており、MP5の弾幕は怜奈に襲い掛かるが、弾が届く直前に怜奈は柱の陰に戻って体勢と立て直そうとする。

 ホーがまだ怜奈に意識が向いている隙に、愛里はG36をホーに向けて乱射する。ホーに向かって放たれた弾丸は彼の持つMP5やそれを握る右腕に着弾する。右腕に当たった弾丸はあまりダメージを与えられなかったのか、ホーは今度は愛里に向かってMP5を発砲しようとする。しかし愛里が放った弾丸がMP5のコッキングレバーを破壊した上、薬室内に入り込んでめり込んだ弾丸が、MP5に給弾不良を引き起こしていた。

 彼が怯んでいる隙に、義也が身を曝け出して立ち上がり、G36をホーに向けて発砲する。義也が放った弾丸はMP5に直撃して更なるダメージを与え、ホーの胴体にも着弾する。しかしチョッキのプレートに当たって彼の身体に直接当たることはなかった。

 ホーはMP5を投げ捨てると同時に、ポケットから手榴弾を数個取り出し、ピンを抜いて手当たり次第に投げつけた。

 怜奈は自分の方に向かって来た手榴弾をSCARの弾丸で撃ちぬいてすぐに柱の陰に隠れ、飛び散る火花と破片を避ける。

 愛里はG36の銃身を握って、ストックで手榴弾をホーに向かって跳ね返した。

 義也も手榴弾を即座にキャッチし、ホーに向かって投げ返す。

 二人がホーに向けて飛ばした手榴弾はホーの手前で宙を舞うまま炸裂し、ホーの身体を吹き飛ばした。

「ぐああぁぁぁァァァァッ!!!!!」

 吹き飛ばされたホーは、破損したMP5を思わず手放しながら、大判のガラス窓に叩きつけられる。ガラス窓に亀裂が起きているが、ホーは気づいていない。

 それに気づいた義也の脳内に、ある一つの策が浮かび上がる。

 ホーは手榴弾の破片を身体中に浴びて、あちこちから赤黒い血を流し始めていた。

 それでもなお、三人への抵抗の意志を見せ、身体に掛けていたG36を三人に向けて構える。

「クックックッ…!!!

 俺を殺しても、また次から次へと、この国を狙う輩が現れるッ!!!!

 そんな分かり切ったことに、いつまでも手を焼き続けるのだから、俺が”死”という解放の道に、導いてやるよォッ!!!!」

 そう雄叫びを上げると、ホーはG36を乱射し始める。

 怜奈と愛里は身を屈めて物陰に隠れる。


 だが義也は、覚悟を決めて、ホーに向かって突撃し始めた。

 それに気づいた二人は驚愕する。

「えっ!!?義也(よし)さん!!?」

「何考えてるんですっ!!?」

 義也はG36をホーに向けて引き金を引いて弾丸を放ちながら、向かい合うホーに向かって全速力で駆け出す。

 ホーの放つ弾丸は、彼の腕が愛里の放った弾や手榴弾の破片で大きく負傷しているせいか上手く義也に当たらない。

 義也の放つ弾丸は、ホーの身体のあちこちに、そして彼の後ろにあるガラス窓に直撃していく。

 そして彼との距離が間近に迫ると、義也はG36をホーに向けて投げつけ、片足に力を込めて飛び上がり、もう片方の足を伸ばして力を集中させる。

 義也の身体中の力が籠った片足が、ホーの胴体にめり込む。


 強力な蹴りを入れられたホーは、勢いよく後方に押し飛ばされ、ガラス窓を突き破った。

「のあああああぁぁぁァァァァッ!!!!???」

 ホーの断末魔が起きたと同時に、怜奈と愛里は嫌な予感を感じて、大急ぎで立ち上がり、義也のもとに駆け出した。

「義也さぁぁんっ!!!!」

義也(よし)さんあぶなぁぁぁぃッ!!!!」

 ホーの身体が野外に飛び出すと、義也の蹴りの脚も、外に出る。

 駆けつけてきた怜奈と愛里が、すぐに義也の腕を掴んで、思わずホーと共にビルから落ちそうになった義也の身体を引き止めた。

 ビルの上部とあって荒い風が立ち込める。

 ホーは一人、断末魔を上げ続けながら、地上へと真っ逆さまに落下していった。

 やがてホーの姿がハッキリとしなくなるほど遠くに霞んでいくと、地上から、柔らかい物が破裂した様な鈍い音が、三人の耳に届いてきた。

 その音が鳴りやんで、風の音だけが辺りを包み込むと、身体の力が抜けたという実感が湧いてきた義也は、「ふぅ…」と一息吐いた。

 顔を上げると、怜奈と愛里が、自分の腕を掴んで必死に落下を阻止してくれていた。

「よ、義也(よし)さん…っ!!早く、上がってきて…っ!!」

「け、怪我人に、無理させないでくださいよ…っ!!」

「わ…分かった…すぐに上がる…」

 義也は二人に引っ張られながら、再び建物の床に足を付ける。

 改めて軽く一息吐いてから、二人の顔を見つめる。

 二人共、やり遂げて満足した様な、落ち着いた顔を浮かべていた。

 そんな二人を見つめ、義也は彼女達の肩をポンッと叩いて言った。

「二人共、ご苦労だった…よく頑張ったな」

 その言葉を耳にした二人は、ニッコリと笑顔を浮かべ、義也の身体に抱きついた。

義也(よし)さんもお疲れ様っ!!」

「はぁ…やっと終わりましたね…」

「あぁ…

 早く降りて、本郷に連絡を入れない…と…」

 すると、義也の身体の力が、無意識に不必要に抜けていく感覚が襲い掛かってきた。

「え?え?」

 困惑する二人だったが、その原因にすぐに気づいた。

 多分、今誰よりも多く怪我を負ってるであろう人物がこの男なのだ。

「あははっ…義也さん、私より深刻じゃないですか…!

 さっ、肩に手を…っ!」

 そう言って義也の片腕を自分の肩に掛ける愛里だが、彼女も傷口が開いて、巻きつけられた包帯に自分の血が滲み出していた。

「ちょ、愛里も愛里じゃん!!

 も~~っ!!!怪我人二人をカバーするアタシの身にもなってよぉ~~っ!!!」

 怜奈は二人の間に割って入り、二人の腕を自分の肩に掛けて、二人を支えながら、地上へと向かい始めた。


 地上に辿り着いた三人。

 ひたすら階段を下ってきたのもあって、三人、特に怪我人二人を支えている怜奈は虫の息になりかける程疲弊していた。

「ぜぇ…っ!!ぜぇ…っ!!」

「やぁっと地上だぁ~…」

「長かったな…」

 すると、三人のもとに、詩音、そして本郷が駆けつけてきた。

「詩音…っ!!それに、本郷さんも…!?」

「いつでも出動できるようにしてたが…もう終わったみたいだな」

 そう話していると、遠くから、こちらに向かってきているであろうパトカーのサイレンが聞こえてきた。

「時間稼ぎはこれ以上無理だ。急げ」

「うんっ!!」

 詩音は自分のバイク、本郷は義也に託したV37の運転席に座り、三人はV37の後部座席に乗り込む。

 本郷が乗ってきたであろう、篠崎が運転している白いバンを先頭に、まずは義也と愛里を治療させるべく、病院に向かい始めた。



〇チャプター12.任務完了



 朝の小鳥の鳴き声が、窓の外から届いてくる。

 目を開けた義也に、見慣れない天井が彼を出迎える。

 ふと、火傷を負った手を上げて視線を向けると、手には清潔な包帯を巻かれていた。

 やがて身体中の感覚が戻ってくると、頭にも包帯が巻かれ、頬にガーゼを当てテープを貼られていることに気づく。

 ゆっくりと顔を左に向けると、そこには、椅子に座って寝落ちしたのか、義也のベッドの上に腕と頭を載せてスヤスヤと眠っている怜奈の姿があった。

 右を向けばそこには、ベッドで安静にして眠っている愛里の姿があった。

 義也はハッキリと、「三人共無事に済んだ」と実感することになった。

 すると、病室に誰かが入ってきた。顔を起こして視線を病室の出入り口に向けるとそこには、ライトブラウンのシングルの革ジャンを基調としたコーデに身を包んでいる詩音が立っていた。手には見舞い用の色鮮やかな花束と、水の入ったペットボトルと共に、リンゴやバナナなどのフルーツが盛られているカゴを持っていた。

「あっ、やっと起きましたね、義也さん」

「あぁ…たった今な…」

 義也は怜奈を起こさないよう、慎重に上半身を起こし、詩音に向き直る。

「状況は?」

 詩音は壁際の棚に荷物を置き、カゴから水の入ったボトルを花瓶に注ぎ、それを終えると、花を差しながら答え始めた。

「状況は終了。あの男の死亡は確認され、部下も全員死亡。

 全部終わったよ…」

「…そうか。なら良かった」

「お医者さんは、「二人共一週間は入院してくれ」ってさ」

「そうだな…しばらく休ませてもらうか…」

「本郷さんは、一刻も早く復帰してほしそうでしたけどね」

 花を差し終えた詩音は、義也の方を向いて、微笑みながら話を続けた。

「でもまぁ、大人しくしててほしいってのが、本音っぽいけどね。

 愛里さんは大怪我負ったのに病院抜け出して現場に突撃するわ…姉さんの話だと、義也さん、あの男と一緒に危うく落下するところだったそうじゃないですか」

「…あれが最善だと思ったんだ」

「無茶しすぎですよ…

 姉さんも巻き込みかけたんですから、しっかり頭冷やしてくださいよ。

 じゃぁ、僕はこれで…失礼します…」

 そう言い残して、詩音は彼に背を向けて、病室を出ていった。

 義也はゆっくりと身体を倒し、再び枕に頭を載せて、身体の力を抜いた。

 そして、眠り続ける怜奈の頭に、包帯に包まれた左手をそっと置いて、彼女の頭を優しく撫で始めた。

(そうだな…ちょっとやり過ぎた…

 二人のためにも、もう少し慎重に動くべきか…

 ……いや、この仕事で、妥協なんてするべきじゃないな…それこそ、二人を余計危険に巻き込むかもしれない…

 …ついて来てくれ…二人共…)


 数時間後。

 昼頃になると、本郷が病室を訪ねてきた。

 病室の扉を開いて早々に飛び込んできた光景は、彼にとっては溜息が出る光景だった。

「はい義也(よし)さんっ!あ~~んっ♡」

 怜奈はニッコリと笑いながら、切り分けたリンゴを義也に食べさせようとしていた。

「なぁ怜奈…一人で食べれるからそういうのは…」

「ダ~メっ!包帯汚れちゃうでしょっ!」

「い、いや…そうだが…」

 その様子を「ふふふっ」と笑いながら眺めている愛里だったが、本郷が来ていたことに気づいて「おっと」と小さく声を上げて彼の方を向いた。

「お、お疲れ様ですっ!」

「お疲れ様…調子は…良さそうだな」

「え、えぇまぁ…」

「親父さん心配してたぞ。勝手に病室抜け出して…」

「あ、あははっ…いてもたってもいられなくて、つい…」

 愛里はそう申し訳なさそうに答えてる傍ら、義也は怜奈にリンゴを食べさせてもらいリンゴを噛み砕いていた。

 怜奈は本郷の方を向いて、彼が手ぶらだということに気づいて「お土産は~?」と尋ねるが、本郷は「そんなの無い」と答え、そのまま義也の方を向いて話し始めた。

「退院したら、すぐに次の任務に当てるかもしれん。病院を出たら、すぐに顔を出しに来い」

「分かった…」

「ちょっとちょっと~っ!二人共けっこうな怪我してるんだよ~っ!?もう仕事させる気ぃ~っ!?」

 本郷は怜奈の言葉を聞いて、深々と溜息を吐いた。

「世界は常に回り続けている…悪人の世界もな。

 残念ながら、休んでる暇は無いんだ。

 頼むぞ…」

 そう言い残し、本郷は三人に背を向けて、病室を出ようとした。

「本郷…」

 と、義也が彼を呼び止める。

「…なんだ?」

「…お前が、俺達を止めずに、サポートし続けてくれたおかげで、任務は終わった…

 …ありがとう。助かったよ」

 その言葉を聞いて、本郷は黙り込んだが、しばらくすると、ゆっくりと振り向いた。

「当然だ。それが仕事だからな」

 そう言って、本郷は静かに、病室を出ていった。

 辺りが静まり返ると、義也は愛里と怜奈に声を掛けた。

「退院したら、また忙しくなりそうだ。二人共、休めるうちに休んどけ」

「は~いっ!」

「そうですね…まだ、撃たれたとこも痛みますし…横になってます…」



〇チャプター13.エピローグ



 平日の昼頃。都内は快晴でとても心地が良い。

 そんな心地良い空気から、突然遮断された小さな空間がある。

 中央区にあるとある銀行に、黒や深緑のニット帽に穴を開けて作られた覆面を被り、密造と思われる5発式リボルバーなどのチープな銃を持った、購入者の特定が困難になりそうな大量生産で人気商品なジャージ姿の男達数人が、その銀行で強盗を働いていた。

 非常ベルはまだ鳴らされていない。

 強盗犯の一人は、取り押さえた警備員を縄で縛りあげて床に叩きつけ、頭部を力強く踏みつける。

 他の強盗犯は、受付の店員達に、大きめのボストンバッグに札束を詰め込むよう指示する者や、人質達に銃口を向けながら「騒ぐな!!」「動くと殺すぞ!!」などと脅している。

 彼らが札束が詰め終わるのを待っている間、銀行の裏方に、二人の男が、強盗犯達の死角になっている通路を歩いていた。

 一人は紺色のスーツを着た小太りな中年男性、スーツの胸ポケットの表に付けられているネームプレートには”多田”と書かれている。

 もう一人は強盗犯と同じ容姿だが、彼らより背が少し高めだ。

 二人が小走りで向かったのは、建物内の後ろ側にある、巨大な金庫室だった。

 扉である銀色の鋳鉄ハンドルの前で立ち止まり、多田がその扉に付いている電子ロックの装置に手を当て、タッチパネルを押して解除コードを入力する。

 入力が終わり、「ガゴンッ」と重たい金属音が扉の中から発せられると、二人はハンドルを回して扉を開ける。

 施錠されたいくつもの引き出しの中から、「40A73-ZB」と黒い明朝体で書かれた文字が刻まれた白いプレートが貼りつけられた引き出しを見つけ、多田が鍵を取り出して鍵穴に差し込んで開錠し、引き出しを開ける。

 引き出しの中には、濃紺の布で覆われた、小さく四角い何かが納められていた。

 多田はそれを手に取り、布をずらして、包まれている代物を確認する。

 濃紺の布に包まれていたのは、古びた黒革の表紙が施された手帳だった。

 多田は手帳を捲って内容を確認すると、何かを確信した様に、もう一人の男と顔を合わせて、不気味にニヤリと笑顔を見せた。

 多田は手帳をスーツの内ポケットに仕舞い、もう一人の男が懐から密造の5発式リボルバーを取り出し、多田の背後に回って彼の肩を掴み、後頭部にリボルバーの銃口を当てながら金庫を出ていった。

 そして他の強盗犯が居る銀行のロビーに行き、彼らと合流すると銀行の外に出ていった。その途端、自由になった銀行の店員の一人が非常ベルを鳴らした。警察はすぐに駆け付けてくるかもしれない。

 強盗犯達と多田は外に出ると、銀行の前に二台の車が勢いよく停車する。白塗りのトヨタ・ヴェルファイアと、ワインレッドのマツダ・CX-5だ。

 共に銀行の金庫に向かった二人はCX-5に乗り込み、他の強盗犯達はヴェルファイアに乗り込み、全員が乗り込むと発進して、やがて二手に分かれた。



 同じ頃。

 咲宮自動車の近所にある、古風な建物の喫茶店。敏生と同い年と思われる、白髪交じりのオールバックヘアの紳士的な容姿の男性が、黒いエプロンに身を包んで、厨房で客のコーヒーを優雅に淹れている。

 店内の窓際の席で、義也、怜奈、愛里の三人が座っている。皆怪我は完治したようだ。

 義也の向かいに座っている怜奈は、注文したスイーツを食べつつ、何か冊子を真剣そうな眼差しで読み込んでいる。

 その冊子は、”警察官になるための基礎知識”などがまとめられた専門書だ。

 どうやら怜奈は、高校卒業後に警察官になることにしたようだ。

 愛里はそんな真剣に勉強をしている怜奈を横から優し気な微笑みをしながら見つめ、義也はカップに残ったブラックコーヒーを飲みながら、彼女の将来に対してひっそりと安堵する。

(敏生さんはこの子の将来を気にしていたが…こうして真剣に、表の仕事への興味が湧いてるのなら、あまり心配は要らないかもな…)

 愛里は怜奈の口元にスイーツのクリームが付いてることに気づき、怜奈自身はそれに気づいてないため、愛里が紙ナプキンを一枚取って「ほら怜奈、口にクリーム付いてるよ~」と言って怜奈に紙ナプキンを手渡す。

「おっとっと、ありがと~」

「勉強するのは良いけど、食べるのと本を飲むのは一緒にやっちゃダメだよ?」

「えへへ~…」

 義也はコーヒーを飲み終えてカップをテーブルに置くと、彼のスマホに本郷からの着信が入る。

「本郷からだ…」と義也が呟くと、怜奈と愛里の間にも緊張が走る。

 義也は電話に応答する。

「どうした?」

《中央区の銀行が強盗に遭った。支店長が人質として連中に連れて行かれた》

「…それは俺達の仕事なのか?」

《あぁ。

 そこの銀行の貸金庫に、ある物が保管されている。黒革の表紙の手帳だ》

「…それが盗まれたと?」

 義也は本郷にそう尋ねながら席を立つ。状況を察した二人も、読んでいた冊子を仕舞い、店を出る準備をする。

《確証なないが、支店長がわざわざ銀行の後ろから強盗犯と共に現れたとなれば、可能性はある》

「わかった、すぐに向かう」

 義也は電話を切り、レジのトレーに一万円札一枚を置いて、厨房に居る男性に向かって「釣りはいらない」と言い残し、怜奈と愛里と共に喫茶店を出ていった。

 三人は、喫茶店の隣にある小さな駐車場に停まっている、ダークメタルグレーの日産・スカイライン V37型400Rに乗り込んだ。購入したばかりなのと、コーティングのおかげで隅々までピカピカだ。

 義也が運転席に、愛里が助手席に、怜奈が後部座席に乗り込んで、義也はスカイラインを勢いよく発進させ、中央区方面へと向かい始めた。

 やがて、怜奈のスマホに詩音からの着信が入る。

「もっしも~し、詩音~?」

《姉さん達、今どこ?》

「これから中央区に入るとこ~。どしたの?」

《銀行の支店長を乗せた車は千代田区に向かってるみたい》

「おっ、ナイス~!サンキュ~詩音っ!」

《気をつけてね…》

 通話を終え、怜奈は電話の内容を義也に伝えると、義也はスカイラインを千代田区へと向かわせ始めた。



 更にその一方で、中央区では何台ものパトカーが。強盗犯が乗ったヴェルファイアを追いかけていた。

 先頭を走る銀色の日産・ティアナ L33型の覆面パトカーのハンドルを握っているのは久藤だ。無線機のマイクを手にして言葉を発すると、車外のスピーカーから彼の声が流れる。

《そこのミニバン、止まりなさい!止まりなさ~い!》

 すると突然、ヴェルファイアは車線を勢いよく移った。ティアナの前に走行中の一般車がおり、久藤は驚きながらもティアナのハンドルを切って一般車を避ける。更に後続のパトカーが避けきれず一般車に追突したが、久藤はバックミラーでその様子を一瞥するとすぐにヴェルファイアの姿に視線を戻す。

 やがて十字の交差点に差し掛かると、横から一台の黒塗りの日産・スカイライン V37型の覆面パトカーが、ドリフトをしながら飛び込んできた。

 V37の運転席には、凛が乗っている。

 凛はヴェルファイアの後ろにV37を付かせ、運転席側のパワーウィンドウを降ろし、ホルスターから支給品の5発式リボルバーを取り出し、リボルバーを握った右手を窓から出して、ヴェルファイアの後輪タイヤに狙いを定め、引き金を引いた。

 凛が放った弾丸はヴェルファイアの運転席側の後輪タイヤに見事に着弾し、撃ち抜かれたタイヤはあっという間にバーストし、ヴェルファイアは制御を失う。

 そして路肩に停まっていたタクシーの側面に接触し、そのまま前方にある街路樹に正面から衝突して静止した。

 久藤と凛の覆面パトカーが大破したヴェルファイアを囲い、二人が降車してヴェルファイアの乗員達を引きずり出し、彼らに手錠を掛けた。

 他のパトカーが到着し、強盗犯達が連行されていく中、久藤は凛に駆け寄り、「ハハッ」と笑いながら声を掛けた。

「警察だからって白昼堂々ぶっ放しちゃってぇ~…後で上から雷が落ちるぞ?」

「あんたらの対応が遅いからでしょ」

 そう言い残し、彼女はV37に乗り込んだ。



 数十分後。

 千代田区の人気の無い廃ビルの地下駐車場に、多田と強盗犯の一人が乗ったCX-5が入って、奥に駐車する。

 駐車場には既に、一台の黒塗りのクライスラー・300Cが停まっている。誰も乗っていないようだ。

 降車してビルの中に入り、三階程上がっていくと、ある広めの一室で、スーツ姿の三人の男が待っていた。

 二人に気づき、一人が前に出て多田と話し始める。

「やぁ”白根”。元気そうだな」

「無駄話はいい…

 例の物は?」

 そう尋ねられると、多田はスーツの内ポケットから、あの手帳を取り出して白根に見せつけた。

「お望みの品だ」

「ご苦労…」

 白根が多田から手帳を受け取ろうとしたその時、天井のパネルの一枚が突然落下して白根の脳天を直撃し、直後、天井から怜奈がグロックを発砲し、白根の後ろに居た二人の胸部を撃ち抜いた。

 強盗犯の一人の後ろに愛里が回り込み、腕を掴んで引っ張って壁に叩きつけ、片足で彼の首を踏みつけながらP226の銃口を彼の顔面に向ける。

 何が起こったのか分からず困惑する多田は青ざめながら辺りを見回していると、部屋にベレッタを握る義也がスッと軽い足取りで入室してきた。

「残念だが、その手帳は返してもらうぞ」

 義也はそう言いながら、ベレッタの銃口を多田の眉間に向けて、彼に歩み寄る。

「自分の銀行を襲わせて、その隙に大金になり得る品物を盗み出すなんてな…」

 そう話していると、怜奈が天井から飛び降りて華麗に着地し、すぐに辺りのクリアリングに移る。

 多田は震える声で、必死に声を出しながら彼に尋ねた。

「お、お前ら…何者だ…!?」

 義也はベレッタの引き金に掛けた指に力を込めて、その質問に答えた。

「お前が知る必要はない…」

 引き金が引かれ、義也が放った弾丸は多田の眉間を貫いた。

 倒れる多田の手から落ちる手帳を、愛里は素早くキャッチし、義也に手渡した。

 義也は手帳に不備などが無いことを確認してから懐に仕舞い、頭にパネルを打ち付けたせいで気絶している白根を持ち上げ、肩に担ぎ、怜奈と愛里と共に部屋を出た。

 外に出て廃ビルの裏手に回り、隠す様に停めていたスカイラインのトランクに白根を叩き込み、三人はスカイラインに乗り込み、スカイラインは勢いよく発進して、白根に尋問を行うため、本郷が待つ、レイジング・ブレイカーのビルへと向かい始めたのだった。

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