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第四話:運命の真実

「ええ、その為にわざわざ逃げてきたもの。

私はエントロピーの裏切り者だから」


 沙羅は淡々と言い切った。

 だが、その声の奥にはわずかな決意が滲んでいた。

 美秀が震える声で問いかける。


「……どういうこと?」


 沙羅はゆっくりと頷き、静かに告げる。


「エントロピーは、単なる能力者の集まりじゃない。

とある計画、エントロピープロジェクトのために存在する組織よ」


 正一の眉が動いた。


「エントロピープロジェクト......?」


 沙羅は短く肯き、今度は真っ直ぐ美秀を見据える。

 その視線に、美秀は思わず身じろいだ。


「エントロピープロジェクト。

完全なる能力者の創造を目的としている。

あなたも、その計画の一部よ。

早乙女美秀」


 その言葉が、美秀の心臓を冷たく締めつけた。

 視界がぐらりと歪み、手が震える。

 震える声で、かすかに問いかけた。


「……どういうことなの……?」


 沙羅はわずかに間を置いた。

 そして、美秀の瞳を見つめたまま、静かに、だが容赦なく告げる。


「あなたはエントロピーが創った、人工的な存在。

ホムンクルスよ」


 時間が止まったような気がした。

 正一の眉がピクリと動く。

 しばし無言のまま、美秀と沙羅を交互に見つめた。


(……人工的に作られた存在、だと……?)


 重い沈黙が場を支配する。

 美秀はその場に座り込んだまま、呆然と宙を見つめている。

 だが沙羅は、その空気を断ち切るように続けた。


「エントロピーは、特殊能力を持つ人間の遺伝子を集め、最も強い個体を創り出そうとしていた。

あなたは、その内の一体なの」


 美秀はゆっくりと頭を抱える。

 震える声が、吐き出されるように漏れた。


「……違う……私は……ただの……普通の人間のはずなのに……」


 沙羅は視線を落とし、そして静かに続けた。


「ゴールドメイデンの力は、エントロピーにとって必要不可欠な存在。

とくに、彼にとっては......ね」


 正一の目が細くなる。

 そして、低い声で一言、呟いた。


「クロノスのことか」


 沙羅は一拍置き、頷く。

そして、言葉を絞り出すように告げる。


 「クロノスは、エントロピープロジェクトの目的そのもの。

完全なる存在として生み出された……完成品よ」


 その言葉を聞いた瞬間。

 美秀の顔から、血の気が引いていった。


「じゃあ……私は……?」


 絞り出すような美秀の声に、沙羅は一瞬だけ目を伏せた。

 だが、すぐにその青い瞳を美秀へ向ける。


「……あなたはパーツ。

クロノスを完成させるための、ね」


 静かで、けれど突き刺さるような言葉だった。

 美秀の肩がビクリと震え、視線を落とす。

 小さく握りしめた手は、白くなるほど力がこもっていた。

 正一はその様子を見て、ゆっくりと美秀の肩に手を置く。

 そのまま、険しい視線で沙羅を睨みつけた。


「……だから狙われていたのか。

あの回収ってのは、そういう意味だったわけだ」


 沙羅はうなずいた。


「ええ。

あなたはゴールドメイデンを覚醒させ、その力をクロノスに継がせるために生まれた。

覚醒すれば、あとは回収されるだけ……そのための存在として、ね」

「そんな……」


 美秀の声は、すでに震えきっていた。

 目の前の現実を受け止めきれず、ただその場に立ち尽くす。

 沈黙。

 誰も、言葉を続けられなかった。

 しばしの後、沙羅が低く、絞るように口を開いた。


「元々、ゴールドメイデンはクロノスに与えられるはずだったの。

でも、クロノスのカースド、クロノスオーダーとは相性が悪く、覚醒まで至らなかった。

だから、エントロピーは別の器を用意した。

あなた、早乙女美秀をね」


美秀は、まるで呪いの言葉を聞かされるように顔を伏せる。


「……でも、私は普通の家庭で育ったのよ。

そんなの、信じられるわけがない……!」


 美秀の叫びが、倉庫内に響いた。

 沙羅はわずかに目を細め、しかしその声に動じることなく言葉を紡ぐ。


「......理由までは分からない。

けれど、ゴールドメイデンを覚醒させるには普通の生活が必要だった。

愛され、守られ、何不自由ない暮らしをすること。

それが力を安定させ、能力を目覚めさせる条件だった」

「……それって、まさか」


 美秀が震える声で問いかける。

 沙羅は頷いた。


「ええ。

だから、エントロピーは偽りの家族を用意した。

あなたの親も友達も、計画の一部だったのよ」

「うそ……」


 美秀の声は震え、喉の奥でひきつれる。


「じゃあ……今までの私の全部が……嘘だったっていうの……?」


 美秀の足から力が抜け、膝から崩れ落ちた。

 こみ上げる涙を必死で堪えるが、肩が小刻みに震えている。

 正一は、無言でその姿を見つめる。

 拳を強く握りしめながら、怒りと無力感を押し殺した。

 沙羅は、そんな二人を見つめ、ゆっくりと言葉を続ける。


「クロノスは、早乙女美秀のゴールドメイデンを取り込むことで、

完全体となる。

時の因果すら支配し、未来も過去も意のままにできる存在へ。

それが、エントロピープロジェクトの最終目的よ」


 倉庫に、重苦しい沈黙が落ちた。

 やがて、正一が低く呟く。


 「つまり……早乙女美秀を捕まえたら、クロノスは完成するってわけか」


 沙羅はゆっくりと頷く。


 「ええ。

だから、エントロピーは、どんな手を使ってでも彼女を捕える」


 美秀は泣き出しそうな声で、震えながら唇を噛んだ。


「じゃあ……私は……ただの部品……。

生まれた時から、それだけのために......?」


 沙羅は静かに視線を落とし、わずかに表情を曇らせる。


「……残酷なことを言って、ごめんなさい。

でも、あなたには真実を知ってほしかった。

あなたには、それを受け止める強さがあると信じている。

それに、あなたには……自分自身で未来を選んでほしいの。

あなた自身のために。」


 沈黙の中で、沙羅はゆっくりと顔を上げた。

 その青い瞳に、確かな決意が宿っている。


「......だから、これから決めましょう。

エントロピーを止める方法を。

……私も、そのためにここへ来たのだから」


 美秀は震えながらも、ゆっくりと顔を上げる。

 その瞳には、かすかに宿る光があった。

 戦いの行方は、美秀の決断に委ねられた。


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