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第三話:訪問者

 夜の街を駆け抜けながら、正一は何度も後ろを振り返る。

 しかし、クロノスたちが追ってくる気配はなかった。


(……本当に追ってこないなんてな。

早乙女美秀......こいつは一体何者なんだ......)


 二人は、無人の倉庫へと足を踏み入れた。

 この街には、こういう隠れ家がいくつもある。

 SDスペシャルディテクティブとしての仕事柄、こうした場所の確保は必須だった。

 ドアを閉め、周囲の安全を確認すると、正一は美秀の方を向いた。


「さて……落ち着いたところで、まずはお前の正体を整理しようか」


 美秀は黙って座り込む。

 目を伏せ、両手を握りしめていた。


「……私は……何者なの?」

 

 呟くような声だった。

 正一は腕を組む。


「アイツはゴールドメイデンって言ってたな。

どう考えても、ただの一般人ってわけじゃなさそうだ」


 美秀は苦しげに顔をしかめる。


「……わからないの。

私は……普通に暮らしてた。

ただの大学生として。

でも、ある日突然、あの連中に狙われて……」


 正一は目を細める。


「……全く覚えはないのか?」


 美秀はゆっくりと首を縦に振る。


「覚えなんてない……普通よ。

普通の家庭で育ったし、友達もいた。

だけど……気がついたら、私……あの能力を使ってた」


 彼女は自分の手のひらを見つめる。


「いや……そういえば、昔……」


 美秀はふと、小さな違和感を思い出した。


「幼い頃、崖から落ちそうになったことがあるの。

でも、気づいた時には......なぜか地面に立っていた。

本当に……何が起きたのか、考えることすらしなかった。

……まさか、あれも……?」


 正一の眉がピクリと動く。

 転落するはずだった未来が、なかったことになっていた。

 正一はしばし沈黙した後、静かに言った。


「クロノスは、因果率の操作と言っていた。

可能性のある複数の未来から一つを決定する......。

もしかすると、それがお前の能力なのか......」


 美秀は俯いたまま拳を握りしめ、肩を小さく震わせる。

 正一はその姿を見つめながら、ふと、自分の言葉の重みに気づく。

 まるで、美秀の運命そのものに触れてしまったかのような、そんな感覚だった。

 そして、言葉の続きを探すように、わずかに息を呑む。

 だが、その沈黙は続かなかった。


「その推測、正しいわよ」


 突如、倉庫内に響く女性の声。

 正一は即座に銃を抜き、美秀を庇う。


「……誰だ」


 倉庫の入り口に、黒いスーツを着た女性が立っていた。

 長い銀髪、冷徹な青い瞳。

 その雰囲気は、クロノスとは違う種類の危険を感じさせた。


「……敵なら即撃つ。

答えろ」


 正一が低く言い放つ。

 その声に、女は余裕の笑みを浮かべた。


「安心して、私はあなた達の味方よ」


 女はゆっくりと歩み寄ってくる。


 「初めまして、SD(エスディー)のレイヴン。

そして、早乙女美秀」


 その言葉に、美秀が小さく息を呑んだ。

 正一は銃口を下げずに睨みつける。


「私の名前は、結城ゆうき 沙羅さら

あなたたちに、敵の正体......エントロピーについて教えに来たわ」


 美秀は思わず息を詰めた。

 正一は銃を構えたまま、静かに言った。


「話してもらおうか。

......お前の正体と、エントロピーってやつの目的をな」


 正一の声が、低く倉庫に響いた。

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